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もうやめるべき地価公示 予算37億円 調査地点1件につき約14万円

 国土交通省は3月22日、平成24年地価公示を発表した。マスコミなどで報じられているので省略するが、全国平均の変動率は住宅地△2.3%、宅地見込地△4.7%、商業地△3.1%、準工業地△2.4%、工業地△3.2%、市街化調整区域内宅地△3.1%と軒並み下落した。リーマン・ショック後の景気の後退、東日本大震災の影響などを考えれば当然の結果だ。その一方で、被災地の高台が6割以上も上昇していることが報じられた。

 ここで、結果についてとやかくいうつもりはない。言いたいのは、もうこの制度を廃止してはどうかということだ。記者は、もう20数年前からやめるべきだと思っているのだが、その気配はないようだ。来年度予算要求にも公示地価だけで約37億円が盛り込まれている。調査地点は今年が26,000地点だから、単純に計算して1件当たり約142,000円だ(実際の調査地点1地点についての不動産鑑定士への報酬は公開はされていないが6万円台)。こんなお金をかけるのなら、全額被災地復興関連にまわすべきではないか。

 なぜ、このような主張をするのかといえば、答えは単純だ。先日、東京農大で地域再生のフォーラムを取材した。東京農大の初代学長の横井時敬は「稲のことは稲に聞け、農業のことは農民に聞け」と語った。

 この言葉と同じだ。「不動産のことは不動産業に聞け」ばよい。最近は、大都市圏だけだが三井不動産販売や野村不動産アーバンネット、東急リバブルなどが土地や中古マンション、中古戸建てを対象に定点観測を行い、定期的に発表している。これで十分ではないか。地方の地価を知りたければ、全宅連系の地場の不動産会社に聞けばよい。懇切丁寧に教えてくれるはずだ。

 面白い話を紹介しよう。記者は、以前に「実勢地価」を地域の不動産会社に聞き取り調査をしたことがある。新米のころは現地に行って聞き出すのだが、慣れてくると電話取材で済ます。片っ端から電話して、「一般的な住宅地の地価」を聞くのだが、とんでもない失敗をしたことがある。確か横須賀だった。「横須賀駅から南に10分のところはいくらですか? 」「馬鹿を言え。10分も歩いたら山だ」と怒られた。すかさず「すいません。では北に10分はどうですか? 」「ばか者。北はすぐ海だ」「えっ、それじゃ東は? 」「この野郎、東は基地だ」 こうした失敗をしたお蔭で、記者は足で歩いて現地取材をしなければならないことに気が付いた。だから、いまでも現場主義を貫いている。

 地価公示の話に戻す。地価公示は、毎年1月1日における標準地の「正常な価格」を公示する制度だ。地価公示法には「正常な価格」とは「土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格」(法第2条第2項)とある。その価格は、一般の土地の取引に対して指標を与え、公共事業などの算定基準とされ、適正な地価の形成に寄与するのが目的だ。

 しかし、この「正常な価格」というのがよく分かるようで、まったく分からない。震災前までは不便さが嫌われていた高台の土地が震災後には一挙に6割も上昇するのは当たり前のようで異常でもある。動きが激しい今の世の中は「正常」と思われることが「異常」に転化し、その逆もある。何が「正常」で何が「異常」であるかは国が関与することではない。

 適正な地価の形成に寄与などしてこなかったのも事実だ。バブルの発生、崩壊の局面では、地価公示は遅行指標であるためにまったく無力どころか、上昇局面では地価上昇を追認し、あるいはあおり、下落局面では下支えする役割を果たした。

 鑑定評価する不動産鑑定士も、先のかんぽの宿でその権威を失墜させた。およそ一般の商行為では考えられないような不可思議な「依頼者プレッシャー」について論議が交わされているようだ。「依頼者=顧客」の要求をプレッシャーと感じたら絶対に仕事はうまくいかない。地価公示の鑑定評価にはプレッシャーは感じないだろうが、このような人たちに「正常な価格」などはじき出してほしくない。

 どうしても地価公示制度を続けるというのなら、せめて都道府県地価と一緒にして欲しい。

(牧田 司記者 2012年3月23日)