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避けては通れぬが…消費税の増税はマンション市場を直撃

 新しい年が明けた。昨年は、未曾有の東日本大震災や欧州の経済危機、円高進行などにより住宅・不動産業界も大きな影響を受けた。幸い、昨年後半当たりからは旺盛な住宅取得意欲に支えられマンションの売れ行きも堅調に推移した。マンションや戸建ての着工も回復基調に推移した。

 今年は、震災復興が順調に進むものとばかり考えていたが、年末には政府・与党が消費税の増税を打ち出し、一転して波乱含みの様相を呈してきた。社会保障と税の一体改革は避けて通れない道とはいえ、いざ、消費税増税を突きつけられてみると、住宅市場はどうなるのだろうという不安が先にたつ。

 消費税増税は住宅市場に大きな影響を与えるのは間違いない。政府・与党は2014年4月に8%に、2015年10月に10%に引き上げる意向で、これから本格的に論議が始まる。自民党などは増税論議より国会解散を要求しており、どうなるかは分からないが、仮に増税されたらどうなるかを試算してみよう。

 分譲マンションの場合、消費税は分譲価格全体に課税されるのではなく、分譲価格から土地代を除く建物価格に課税されることになっている。つまり、仮に土地代を1,000万円、建物価格を2,000万円とすると、現在の消費税額は2,000(万円)×0.05=100(万円)となり、分譲価格は1,000+2,000+100=3,100(万円)となる。

 消費税が5%から8%になると分譲価格は1,000+2,000×1.08=3,160(万円)となり、消費税が10%になると分譲価格は1,000+2,000×1.10=3,200(万円)となる。つまり、消費税が10%に引き上げられたら分譲価格は100万円アップすることになる。

 問題は、前述したように消費税は建物価格のみに課税されるので、土地代の占める割合が大きい都心部などの物件よりも、郊外部の物件のほうが見かけ上は価格上昇率が高くなるという逆累進的課税だということだ。借入金が2,000万円ぐらいの人にとっては1%程度の住宅ローン控除は焼け石に水だ。全て消費税に消える。消費税の値上げは一次取得層を直撃する。

 消費税がアップするのは再来年4月以降と高を括ってはいられない。課税されるのは契約時ではなく引き渡し時だから、再来年4月以降に完成・引渡しされる物件は全て対象となる。これから分譲マンションの購入を考えている人は資金計画を見直さざるを得なくなる。

 供給サイドにとっても、その対応に追われることになる。これから着工するマンションは、工期が短くてすむ低中層マンションを除き、引渡しが2014年4月以降になる物件も出てくるからだ。消費税額を分譲価格に吸収できればいいが、現在でも建築費は最低ラインにあり、これは絶望的だろう。設備仕様を落とすことも考えられるが、これも商品の競争力を低下させることになるので難しい選択となりそうだ。結局は価格に転嫁せざるを得ないのではないか。

 このように内外の住宅取得をめぐる環境は極めて流動的で、波乱含みの展開が予想される。

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 住宅・不動産業はソリューションビジネスでもある。昨年の世相を表す漢字として「絆」が選ばれたが、この言葉はキーワードの一つだ。企画提案力が明暗を分けることになる。夫婦間、親子間の「絆」を強める提案を行い、さらには管理会社と連携して地域とのコミュニティ形成を図る仕組みを構築すべきだろう。「スマートハウス」「スマートシティ」も重要なテーマになりそうだ。

 ユーザーには、しっかりと自らのライフスタイル、ライフサイクルを見据え物件選択をしてほしい。消費税の増税は大打撃だが、住宅取得を先延ばししても問題の解決につながるとは限らない。中長期的に見ても、賃貸市場が改善されるとは思えない。

 われわれ団塊世代のことを話しても参考にはならないだろうが、われわれの世代が住宅を取得した時代の住宅ローン金利は5〜8%だったし、頭金の捻出のため飲まず食わずのやりくりをおこなった。当時と比べ住宅の性能は比較にならないほど向上しているし、いまのローン金利はただ同然だ。

(牧田 司記者 2012年1月5日)