RBA HOME> RBAタイムズHOME >2011年 >

「日本建築の宝」の技に感動

住友林業 高級和風「駒沢第二展示場」


「駒沢第二展示場」モデルハウス


  住友林業は3月7日、今年1月にオープンした高級和風「駒沢第二展示場」を報道陣向けに内覧会を行った。日本の伝統的な技術や材料をふんだんに盛り込んだ凛とした美しさが伝わってくる住宅だ。

 モデルハウスは、「駒沢公園ハウジングギャラリー ステージ3」(世田谷区深沢4丁目26)に設置したもので、1階床面積111.17u、2階床面積55.06u、延床面積166.23u。

 外観は、緩やかな勾配屋根や深い軒によって強調された水平ラインと、2階の印象的な妻壁により重心の低いフォルムとなっており、通りから内部が容易に見渡せないようにしているが、縦格子により内部と外部を結ぶ工夫も凝らされている。屋根はいぶし瓦と銅板を用いた腰葺き方式を採用している。腰葺きとは、軒桁より先の部分を軽い板や金属で葺く形式。

 住宅の造作材に杉材を多用しているのが特徴の一つ。樹齢が200年、300年といわれる秋田杉、吉野杉、霧島杉などを40年以上乾燥させた赤の部分(心材)を格子、建具、柱、障子、天井などに採用している。一部の床にはタモ材の名栗や竹材を採用。名栗とは、特殊な鉋で表面に凹凸を設けた仕上げ方法。壁は真壁。

 居間の床や一部の建具にはブラックウォールナットを採用。庭に面した幅3間の開口部には4枚の大型サッシと障子を配している。正面の壁には信楽焼きの「千年の翠」と呼ばれる深緑のタイルを採用。吉岡幸雄氏の紅と藍で染めた斐伊川和紙を鈴木源吾氏が仕上げた二曲屏風が設置されている。

 離れの和室は、茶室にもなるよう炉を切り、釜を吊るせるようにしており、霧島杉、赤松などの造作材を用い竿縁天井仕上げとし、床の間の天井は網代組仕上げ。障子は、吉岡幸雄氏が直接染めたグラデーションのかかった手漉き和紙が採用されている。土間側の障子は手漉きの内山和紙を市松貼りにしている。採用している和紙は、白を出すために材料を雪にさらした20年もので、東京都の伝統工芸士でもある表具師・鈴木源吾氏が貼った。モデルハウスの隣に建つ蔵を借景に取り入れたのも大きな特徴の一つだ。

 挨拶に立った同社常務執行役員住宅事業本部副本部長・和田賢氏は、「当社はもともと『和』からスタートしたが、その後、『洋』志向の強まりの中で、当社も全国で285カ所あるモデルハウスのうち『和』は55カ所に減っている。20数年前と正反対だ。しかし、最近は若年層にも和のテイストが好まれるようになってきた。そこで、温故知新をテーマに当社の技術と匠の技を盛り込み、さらに最新のテクノロジーもプラスした。価格は、当社の他の商品より数百万円は高いが、『都内ナンバー1』ハウスメーカーとして収益アップに繋げたい」と語った。


和室

◇     ◆     ◇

 30年前の感動が甦った。記者はこれまでほとんどハウスメーカーの取材は行ってこなかったが、この業界に入った30年ぐらい昔、確か後楽園にあった住宅展示場を見て回ったことがある。そのとき、住友林業の間口が2間はありそうな総檜造り(あるいはカバザクラか)の玄関框を見て、『住友林業ってすごい家を造るものだ』と感嘆したのを覚えている。

 その後、現在まで和風住宅のナンバー1は同社だと思ってきたが、今回改めて再確認することができた。あの総檜づくりの住宅とはまたちがった凛とした風格のある住宅だ。一分の隙もない技に鳥肌が立った。

 2階のカウンターに採用されている樹齢200〜300年は経過しているという長さ3間の吉野杉は節が全くなかった。他の造作材も障子の桟に至るまで節はほとんどなかった。「杉は節もまた美しい」と記者は思っているが、商品説明した同社住宅事業本部技術部マネージャー・不破隆浩氏は「節があるとどうしてもそこに目が行く。それを避けたかった」と語った。確かに伊勢神宮の造作材も節など一つもない。日本の美意識がこの住宅には込められている。見学者は従前のモデルハウスの来場者数と比べ前年比40%増だという。プロも是非見学してほしい。

 ちなみにモデルハウスの価格は8,400万円ぐらいだという。土地代は含まれないが、億ションなど比べものにならないほど安いと思う。


2階カウンターの杉材

◇     ◆     ◇

 「皆さん、ここ(鴨居)をよく見てください。四隅に全く狂いがない。これは当社の72歳の大工さんが建てたのですが、これほど素敵な仕事ができるのはそういない。日本建築の宝です」

 和田氏が報道陣に和室の造りを説明している時に語った言葉だ。この大工さんの50歳の息子さんも同社で働いており、伝統の技を継承しているという。もちろん大工さんや左官屋さんには停年がない。「停年」がない社員を抱えられる会社もまたすごい。障子を貼った鈴木氏も75歳だという。


不破氏

◇     ◆     ◇

 内覧会の後、渋谷のホテルで食事会が行われた。会場までのタクシーの中で、同席した一級建築士でもある同社住宅事業本部営業推進部商品企画グループマネージャー・中川知博氏としばし仕事について語り合った。

 記者は、「現場主義を貫くから、毎日新しい発見がある。記事は、一字一字魂を込めるように心掛けている。魂を込めるから読者の方が感動してくれる」などと語ったのに対し、中川氏は「私も同じ。1本の線にも魂を込める。お客さまの声をよく聞くことが大事だが、かといってプロとして媚びることもしない。ミース・ファン・デル・ローエという建築家が『神は細部に宿る』と語ったように、ディテールにも気をつける。細部を手抜きすると、基本そのものが疑われるのです」と語った。

  
居間                                通り土間     

(牧田 司 記者 2011年3月8日)