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日本不動産鑑定協会「将来ビジョン研究会」

「依頼者プレッシャー」の文言に違和感

 

 日本不動産鑑定協会は現在、「不動産鑑定業将来ビジョン研究会」を立ち上げ、15年ぶりに不動産鑑定業将来ビジョンを取りまとめる作業を行っている。「研究会」では重要な3テーマについて検討されており、そのうちの一つに「依頼者プレッシャーへの対応策」という聞き慣れないテーマが含まれている。

 ホームページには「依頼者プレッシャー」がどのようなものかは明示されていないが、とりまとめ案の文章からすると、鑑定評価の依頼者から鑑定価格を上げるようあるいは下げるようにとの誘導、ほのめかしのことを指すようだ。

 研究会では、「依頼者プレッシャー」通報制度を設け、プレッシャーを受けたときは鑑定評価業務を謝絶する場合があり、通報により監督官庁から成果報告書などの開示請求があったときは守秘義務契約にかかわらずこれに従うことを了承することを盛り込んだ「経営者確認書」を取り交わすとしている。

 これに対して、様々な意見も寄せられている。いくつか紹介しよう。

・ (不動産鑑定評価)基準に則った価格等調査に的を絞るのか、それとも基準に則らない価格等調査まで範囲を広げるのか。基準に則った価格等調査に限定すると、いわゆる笊法になるおそれがあるのではないのか

・ 「経営者確認書」の提出に強制力を持たせるためには、任意団体である当協会の自主ルールとせず、国土交通省の対応を求める必要があるのではないのか

・鑑定業界の信頼性を確保するためには、国土交通省の対応としなければならないのではないのか。当協会の自主ルールとした場合、非会員が不当なマーケット(謝絶された案件を専ら受ける)を構成することを防げないのではないのか

・依頼者プレッシャーへの対応ばかりではなく、鑑定業界側の浄化作用の強化も必要ではないのか。全ての鑑定業者が依頼を謝絶するのであれば、発注元がプレッシャーをかけるのを断念する

 つまり、「依頼者プレッシャー」を謝絶するのは賛成だが、強制力を持たせるために国交省が対応すること、謝絶した会員の仕事がなくなるのは困るということのようだ。

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 記者は、この「プレッシャー」の言葉に違和感を覚える。同協会が「プレッシャー」を一般的な「圧力」と解しているのかどうかは分からないが、依頼者も第三者も間違いなく「圧力」と受け止めるだろう。

 不動産鑑定評価にとどまらず、どのような商行為でも顧客からの価格下げ、あるいは価格上げ依頼はある。明らかに不当なものはともかく、社会的に有用性のある依頼主の要求を満たそうとするのは当たり前だ。その要求を「圧力」と感じた時点で双方は微妙な関係になる。

 不動産鑑定士の資格試験と同様、国家資格の中でもっとも難易度が高いといわれる弁護士資格だが、弁護士は、依頼主の要求をプレッシャーと感じるのだろうか。あるいは医師は患者の願いをプレッシャーと感じるだろうか。むしろ逆だろう。依頼主の要求に最大限応えようと努力するはずだし、その要求に応えることに喜びを見出すだろう。

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 不動産鑑定協会の「倫理規程」には次のようにある。

 第1条(社会的役割) 会員は、不動産鑑定評価制度の社会的公共的意義を十分理解し、それぞれに課せられた専門職業家としての責任・義務のもとに、良心に従い、的確で誠実な業務活動の実践によって、不動産の適正な価格の形成に資するように努めなければならない。

 第3条(人権の尊重、公平中立性保持) 会員は、基本的人権を尊重し、他者の権利を侵すことのないように留意するとともに、自己の信念に基づいて行動し、偏見をもつことなく公平中立な態度を保持しなければならない。

 第14条(不動産鑑定業者の品位保持) 会員は、不動産鑑定業を営むに当たっては、営利を求めることにとらわれて品位を損なう行為をしてはならない。

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 同協会へ「依頼者プレッシャー」という文言の定義を聞いた。「不当鑑定につながるような依頼者の要求」のことのようだ。不当鑑定につながるような理不尽な要求を突きつける依頼者が多いということのようだ。

 ここに、医者や弁護士、あるいは公認会計士と同レベルの社会的評価を受けている不動産鑑定士をめぐる現状が垣間見えてくる。「かんぽの宿」問題では、鑑定評価をめぐる経緯がいろいろ取りざたされたし、ゲームソフト販売会社「ネステージ」が、不当に高く鑑定された旧「かんぽの宿」などの現物出資で増資を行ったとされる事件では、不動産鑑定事務所が家宅捜索された。

(牧田 司 記者 2011年2月23日)