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「石橋を叩けなかったか…」 東京建物の業績下方修正に思う

 各紙が報じているように、東京建物は12月12日、平成23年12月期業績予想修正・社長交代人事を発表した。

 事業環境の悪化により収益性が低下する分譲マンション用地、ホテル・再開発事業などで営業損失約130億円、特別損失約650億円、当期純損失として720億円(前回発表時は純利益60億円)を計上。配当金も無配とする。

 また、一連の経営責任を明確にするため、来年2月の決算発表時に畑中誠社長(66)は代表権のない会長に、南敬介会長(75)は相談役にそれぞれ退き、新しい社長に佐久間一副社長(63)が就任する人事を発表。さらに、役員報酬の減額も実施し、来年1月から当面の間、月額報酬を会長、社長は50%、取締役は10〜40%それぞれ減額。監査役も10%を自主返納する。

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 「時は金なり」「Slow and Steady Wins the Race」 ―― この言葉がいかに大事かを今回のニュースで強く感じた。リーマン・ショックの傷は癒えるどころかその影響がじわじわと大手にも波及してきたことも実感した。

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 警察大学校跡地約3.5ヘクタールの「(仮称)中野駅前」を東京建物などが1,437億円で取得したのは2007年6月だった。1坪当たり1,355万円だ。どんどん土地が値上がりし、ミニバブルの様相を呈していたころだ。

 東京建物ファンの記者は快哉を叫びたい気分になったが、同時に大丈夫か。ずいぶん高い≠ニも思った。当時の同社の売上高は約2,300億円だ。売り上げの6割を超える額を1プロジェクトに注ぎ込んでいいのか、石橋を叩きながら渡る同社としては思い切ったことをしたものだと不安も覚えた。

 このプロジェクトには分譲マンションは計画されていないが、仮に分譲マンションにしたらいくらになるか、そのとき計算してみた。容積率を500%とし、1種(容積率100%)当たり単価を約270万円、分譲単価は坪450万円以上とした。他のエリアも上昇していたからこれでも売れるかも≠ニも思ったが、半信半疑だった。

 そして、翌年。リーマン・ショックが襲った。相場は軒並み2割下落した。現段階での分譲マンション相場は高くても380万円ぐらいでないか。オフィス賃料も同様に下落している。

 同社が多額の特別損失を計上したのは、このように事業環境が激変したからで、不運としか言いようがないが、果たしてそれだけか。

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 対照的な事例が三井不動産などの「東京ミッドタウン」だ。同社などがこの敷地約6.9ヘクタールを1,800億円、坪759万円で取得したのは2001年だった。当時、業界では高値落札といわれたが、記者は極めて妥当な取得額だと思った。同社などが落札する半年前に様々なシミュレーションを描き、妥当な落札額は1,750億円、容積率を700%とし、1種当たり約108万円とはじいた。結果はその通りになった。この1,800億円の落札価格をほとんど的中させたのは、30余年の記者生活の中でもっとも記憶に残っている記事の一つだ。

 東京ミッドタウンと「中野駅前」プロジェクトの1種当たり単価を比較していただきたい。六本木が270万円、中野が108万円ではない。その逆だ。

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 下方修正を余儀なくされたプロジェクトとして「横浜プリンス」跡地のマンションもありそうだ。この敷地を同社が取得したのは2006年だ。取得したころは横浜の「みなとみらい」は坪400万円が相場となっており、「横浜プリンス」の立地を考えれば坪300万円を突破するといわれた。

 しかし、地元との調整に手間取ったためか、着工したのは今年で竣工は3年後の2014年だ。分譲単価がいくらになるか分からないが、250万円ぐらいではないかと予想する。

 たら、れば≠ヘないが、仮にリーマン・ショック前に分譲していれば、坪300万円でも間違いなく早期完売していたはずだ。「時は金なり」だ。

 このほか、同社はリーマン・ショックを前後して「臨海副都心青梅R区画」「目黒駅前地区」「大手町一丁目地区」「大阪駅北地区」「淡路町二丁目西部地区」「京橋三丁目地区」などのビッグプロジェクトに参画している。

 手堅い経営で知られる同社にとって手を広げすぎたのではないかとも思う。

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 東京建物ファン≠フ一人として、同社がウミを出し切り、大手の一角として輝きを取り戻して欲しいと願うばかりだ。

(牧田 司記者 2011年12月13日)