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旭化成ホームズ 第6回「くらしノベーションフォーラム」

「地域循環居住モデルの構築を」東大・大月准教授


大月氏

 旭化成ホームズは12月6日、第6回「くらしノベーションフォーラム」を開き、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻・大月敏雄准教授による「地域循環居住〜計画住宅地の成熟化と居住誘導計画〜」と題する講演と、メディアとの懇親会も行なった。

 大月氏は、 @1家族=1住宅=1敷地の呪縛から抜け出せず、数が重要視されるあまり質の問題が後回しになりがちとし、A時間変化を無視B時間蓄積(記憶)の無視−に20世紀的な問題があるとし、これらを打開するためには@居住実態と家族のあり方の把握Aダイナミック(動的)な計画学、プロセス・デザイン、マネジメントB記憶の継承のためのメカニズムと器が必要と説いた。

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 大月氏は、「森の里レイクタウン」や「ユーカリが丘」、アメリカの「ドロアース・ハイデン」、「同潤会柳島アパート」「江戸川アパート」「西戸山タワーホームズ」「長屋門」など多くの具体的な団地やマンションの居住形態から時間経過による変遷を示し、「代々住み継がれ、成熟した循環型集住体」に作り変えていくことの大切さを訴えた。「私が調査した限りでは、どこの団地でも1割から2割、ところによっては3割ぐらいが近居している」と語った。

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 大月氏も九州の田舎出身ということだが、記者も三重県の田舎で生まれ、育った。大月氏もいうように、街とはお金持ちも貧乏人も、お年よりも身体障害者も若者もいて形成され、地域ぐるみでコミュニティを形成し、人を育てる機能が保持されているものだと思う。しかし、こうした田舎(街)は、高度成長期の都市化の波に飲み込まれ、本来ある街は完全に破壊された。国と住宅公団による画一的な街づくり、都市づくりは完全に破たんしたと思っている。

 参考までに、私事だが、素晴らしい田舎のことを紹介する。記者は小さいころ、祖母に連れられて、農家の納屋か倉に幽閉されていた体が不自由で歩けない老女のところによく訪れた。薄暗くてむせた臭いがした。正直、怖くて嫌で仕方なかった。後で聞いたのだが、祖母は他の村から結婚して私の村に越してきたのだが、その老女のことを知り、ふかし芋をこっそり与えていたという。社会的弱者をだれかが支援するのは当たり前だったようだ。記者は祖母によって育てられたといってよい。父より母にはいつもぶたれていた。母のほうが怖かった。

 もう一つ、私の家は、どこでもそうだったが囲炉裏があった。その囲炉裏で、田舎の人たちが語る言葉によって経済を知ったし、都市が農村を破壊した実態を知った。親父が火箸で灰の上に書く漢字で書き順も含めて字を覚えた。子ども部屋も椅子も机もノートも消しゴムもいらなかった。囲炉裏で全てを覚えた。

 話を元に戻す。その意味では、大月氏の主張はよく分かる。しかし、「循環型集住体」をつくっていくプロセスが今ひとつよく分からない。大月氏は「どこの団地、マンションでも1割から2割ぐらいは近居」といわれるが、それらは特殊なケースで、仮に1割とか2割、同一マンション内に近居型の住戸を提案して果たして売れるかどうか。デベロッパーとしては、成功するか失敗するか分からない近居型のマンションを供給する勇気はないだろう。

 とはいえ、これまで隣居、近居を提案したマンションがないわけではない。東急不動産はバブルのとき、横浜・磯子で隣居・近居型の大規模マンションを供給している。また、確か日本土地建物だったと記憶しているが、武蔵小杉で隣居を前提にした 2 住戸を1セットにして販売したことがある。成功したかどうかは定かではないが、事例としては極めて少ない。考えてみれば、隣居、近居は、様々な理由で親が子どもを呼び寄せるか、あるいは子どもが親を呼び寄せたりして始まるケースがほとんどだろう。親子が揃って同時に新たなエリアで隣居、近居を始めるケースなどはまずありえない。ここが難しいところだろう。

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 「ユーカリが丘」は、デベロッパーはもちろん行政も学者先生も学ぶところは多い。事業者の山万はもともと大阪の繊維卸が創業だ。「ユーカリが丘」の開発に当たっては自力で鉄道を敷き、計画的な街づくりを進めてきた。退路を断つために繊維から撤退し、幹部をはじめ社員の多くが「ユーカリが丘」に住むようになった。

 同社だからできるのだろうが、団地の人口構成、移動を完全に把握し、あるときは高額の戸建てを供給したり、あるときは若年向きのマンションを分譲したりして、人工ピラミッドをコントロールしている。ユーカリが丘と同じ昭和50年代に開発された多くの郊外団地が居住者の高齢化・ゴーストタウン化の危機に瀕しているのと対照的に、まさに持続可能な「千年優都」を実践している。

 この団地内では、大月氏がいうように近居は1割をはるかに超えているはずだ。近居を定着させるためには、デベロッパーと行政、専門家がしっかりとスクラムを組むことが必要だろう。記者は、そのためにも建築基準法や都市計画法の全面的な見直しを行なうべきだと思う。

(牧田 司記者 2011年12月8日)