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 野村不動産

都の「マンション環境性能表示」初の3つ星

「プラウドタワー東雲キャナルコート」は坪240万円


「プラウドタワー東雲キャナルコート」完成予想図

「湾岸」「タワー」復権の牽引車に

 野村不動産は9月29日、江東区東雲で開発中のタワーマンション「プラウドタワー東雲キャナルコート」の記者発表会を行なった。震災後に初めて都内の湾岸で分譲されるタワーマンションで、同社にとっても過去最大級の戸数規模であることから売れ行きが注目される。現在、約800組の来場者がある。第1期販売を11月下旬で、200戸以上を予定している。

 物件は、東京メトロ有楽町線豊洲駅から徒歩11分、又は同線辰巳駅から徒歩11分、江東区東雲1丁目に位置する52階建て全 600戸の規模。専有面積は58.87〜103.74u、予定最多価格帯は5,000万円台、予定坪単価は約240万円。引渡し予定は平成 25 年4月中旬。設計・監理・施工は大林組。

 現地は、平成12年から開発が進められている「東雲キャナルコート」内に位置し、分譲マンションとしては最後の計画。24時間営業の大型商業施設「イオン東雲店」へ徒歩3分、敷地内には認可保育園(平成25年開園予定)、隣接地には23区内初の認定こども園と高齢者施設が融合した「グランチャ東雲」がある。

 当初は、ゴールデンウィークに販売を予定していたが、震災のため販売を中断。それまで反響があった約3,000件の中から約 1,000 件の人にアンケート調査を実施。その結果、新たに地盤改良工事の範囲を広げたり液状化対策やタワー内に9か所の防災倉庫を設置するなどの防災対策を充実させたりしているのが特徴で、東京都の「マンション環境性能表示制度」( 2009 年度基準)の全ての評価項目で 3 つ星≠獲得した都内初のマンション。

 防災対策としては、防災倉庫を設置するほか、非常用エレベータの法規制の4時間稼働に20時間を加え24時間稼働とし、外構や付帯施設の液状化対策を新たに追加した。また、冷蔵庫・食器棚・家具の転倒を防ぐための下地工事を全戸標準実装する。

 発表会で挨拶した同社住宅カンパニー上席執行役員・山本成幸氏は「震災後のマーケットは不透明感も広がったが、ひるまず供給を行い、これまで21物件を供給し16物件を即日完売した。湾岸物件の『稲毛海岸』、タワーの『相模大野』『武蔵浦和』も即日完売するなど好調なスタートを切った。当プロジェクトは震災で販売を延期したが、当初の問い合わせをいただいたお客さんの声を企画にくみ上げてスタートを切る。問い合わせは約 5,500 件に達しており、また同業からもエールをもらっているので、湾岸、タワーのマーケットを練り上げたい」と語った。


記者発表会

 記者は震災後、湾岸とタワーのマンションには相当の逆風が吹くと思った。あるデベロッパーの広報マンからは「液状化など全然ないのに風評被害が大きい。来場がばったり途絶えた。きちんと見てほしい」といわれ、豊洲−有明−東雲−辰巳エリアを 1 日がかりで見て回った。都の築地市場の移転先に予定されている豊洲や空き地になっている有明地区などでは液状化の跡が見られたし、辰巳の都営住宅は軒並み 30 センチぐらい地盤沈下し、配水管などが寸断されていた。

 しかし、既存のビルやマンションなどはその痕跡は全くといっていいほどなかった。新浦安も千葉市美浜区などはインフラがズタズタになったが、マンションはしっかり建っていた。

 電気の供給が止まれば、タワーマンションは孤島≠ニ化すのでなんともいえないが、湾岸であるがゆえにユーザーのマンション選択肢から排除されるのだけは避けなければならないと思った。どこのマンションがその逆風を跳ね返し、需要を取り戻すか考えた。すぐに頭に浮かんだのは三菱地所レジデンスの「晴海」と、今回の野村不動産の「東雲」だった。この 2 物件の販売動向がその後の 1 万戸ともいえる湾岸マンションの計画に大きな影響を与えるだろうと思った。

 三菱地所レジデンス「晴海」は、まだ価格が公表されていないが、記者の相場観からしてかなり割安で供給されるはずだ。ここは現地も見ているので、しっかりユーザーに物件特性を訴え切れれば間違いなく売れる。歴史に残るマンションだと思っている。

 さて、今回の野村不動産の「東雲」はどうか。同社が用地を取得したのはリーマンショック後だ。競争はなかったはずだ。かなり安く供給できると思っていたが、今回発表された坪240万円というのはど真ん中より低いストレートだろう。「東雲キャナルコート」のこれまでの民間マンションと比べると、160万円だった最初の「Wコンフォート」はともかく、その後の3物件と比較してもほぼ同じかむしろ安いぐらいだ。

 価格的にはかなりインパクトがある。しかも、今回はもっとも「豊洲」に近い地の利もある。ただ、価格の安さだけでは逆風を跳ね返すにはやや馬力が足りないと思っていたが、強力な推進力となりそうなのが都の2009年度版の「マンション環境性能表示制度」で初の5項目オール満点(1項目満点は☆3つで、5項目全て満点は☆15個)3つ星(星15個)≠確保したことだ。3つ星マンションは現段階で、このマンションともうひとつしかない。満点に星が一個欠ける 14 個も 1 物件しかない。

 オール満点を獲得するに当たって、ハードルが高い「長寿命化」の評価項目で満点(星 3 つ)を獲得したのが大きかった。長寿命化で満点を獲得したのはSIを採用していることが評価されたのだが、同社はずっと以前からSIを積極的に採用してきた実績がある。それがここでも生かされたということだ。

 価格がリーズナブルで初の3つ星−−これで逆風を跳ね返す力になると思ったが、同社はさらに震災後のアンケート調査などから防災対策、液状化対策などを追加した。ここでは一つ一つ紹介しないが、予定していたた 3 つのモデルルームのうち 1 つを安心・安全の説明コーナーにしているのもいい。実物大の柱や杭の模型、壁の下地処理の仕方などが分かるようになっている。1階部分の柱のコンクリートは世界で初めてという1mu当たり150N (ニュートン)の高強度・高耐久性を実現したという。

 細かなことだが、震災から学んだことも商品企画に生かされている。仙台などのマンションは震災で耐震ラッチ付きの吊戸棚は作動したのだが、戸棚を開けたとたん食器類が落ちてきて割れたという。棚板が扉より4センチぐらい奥まって設置されていために倒れた食器類が扉に寄りかかっていたのがその原因だと分かり、同社は隙間を約18ミリに縮めたという。冷蔵庫が倒れないよう下地処理も施している。

 設備仕様・プラン面では、食洗機はオプションで、玄関框部分が高さ約20センチとやや高い、キッチン・洗面カウンターは人造大理石など、「相模大野」や「武蔵浦和」などと比べるとやや見劣りもするが、価格の安さを考えれば納得できる。

 「晴海」との競合だが、「中央区晴海」と「江東区東雲」の差がかなり単価にも反映されそうであまり競合しないとみた。むしろ相乗効果で「湾岸」復権を牽引するとみた。

 

(牧田 司 記者 2011年9月29日)