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  築30年で建替えに成功した「ブランズシティ港南台」


「ブランズシティ港南台」

建替えの道筋をはっきり示した音頭取りの存在

 東急不動産と東急コミュニティーは9月17日、東急不動産の建替えマンション「ブランズシティ港南台」管理組合と共同して「共用施設見学&居住者懇親イベント」を開催した。約220人が参加した。

 イベントは、震災後高まっている防災に対する知識を習得してもらうのと、入居者同士の絆を深めてもらうのが目的で、消防署の協力を得て防災訓練を行い、ミニ朝市を開いたり、防災設備のスタンプラリーを行った家族にはミニ縁日カードをプレゼントしたりするなどの工夫を凝らしていた。同マンションは、 JR 根岸線港南台駅から徒歩2分の14階建て全265戸の規模。今年3月に竣工した。

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 マンションの共用施設を見るのはこれまでもたくさんあるが、入居者が参加する催しを取材するのは今回が初めてだった。しかも、建替え団地であるため、どうして合意形成にいたったのか興味があった。幸い、同マンションの従前の管理組合の初代理事でもある現理事長の茂手木重雄氏と、現副理事長の長田明氏にインタビュー取材することができた。以下、そのレポート。


長田氏(左)と茂手木氏

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 旧日本住宅公団の全5棟96戸の「うぐいす住宅」が竣工したのは昭和53年。平均専有面積は約54平方メートルだった。現理事長の茂手木氏も初期入居者の一人だった。初代理事に「自分で手を上げ」就任した。29歳だった。新耐震基準が導入されたのは竣工後3年が経過した昭和56年だった。茂手木氏は言う。

 「私も入居したときは子ども一人でしたが、二人になるとやはり狭い。もう一部屋何とか増やせないかというのがそもそもの発端。10年後くらいに、各住戸の南側に増築できないかという話が持ち上がったのですが、日照が確保できないことが分かった。専門の建築士などと相談した結果、駅に近く、近隣商業だから容積も増やせるということで、建替えも選択肢の一つであることが分かりました」

 建替えの動きを加速させる要素はもう一つあった。5階建てであるためエレベータも設置されていなかったことだ。「外付けで設置する案も浮上しましたが、多額の費用がかかることが分かり、構造上、車椅子が使えないということなどで根本的に建替えようとなりました」(茂手木氏)

 管理組合は平成13年、建替えを総会に提案した。しかし、否決された。「竣工後20年ぐらいしか経っていない。もったいないという意見が多かった」(同氏)ためだ。

 それでも、耐震性の強化はもちろん、狭さの解消とエレベータの設置要求は入居者の心にずっと残った。

 副理事長の長田明氏が言う。「長期修繕のシュミレーションと建て替えを比較検討してゼロから出直そうと『うぐいすの建て替えを目指す会』立ち上げたのが平成17年 です。その数年後、マンションの建替えの円滑化等に関する法律が成立したのも転機となりました。入居者の平均年齢も60歳台になり、建替えの動きが加速しました」

 東急不動産が参加組合員として建替え事業に参加したのは平成18年。そして同20年、横浜市の横浜市市街地環境設計制度の適用を受け、建替え組合を設立。同21年に着工、同23年3月に竣工した。

 近隣との共生を図っているのも大きな特徴の一つだ。近隣住民も使用できる「まちの集会所」や万が一の場合は誰でも管理人と通話可能な「スーパー防犯灯」、地域の人たちの作品を展示する「街のギャラリー」などを設置し、駐車場屋上の「シーズンガーデン」は防災時には住民にも開放するという。「環境設計制度の適用を受け高さ制限を緩和してもらいましたが、容積率を抑え、住棟の周囲をセットバックさせるなど近隣の方々にも配慮しました」(長田氏)

 管理組合は近く、自治会も立ち上げる。「マンションは区分所有者だけでなく賃貸の人も入居します。コミュニティは合意形成の手段ではなく、それ自体が目的です。自治会は任意で会費は月額200円を考えていますが、今のところ90%ぐらいの加入率です。あとから自治会を作るのは大変。最初にやらないといけない」と、二人は話した。

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 管理組合と自治会は例えるなら車の両輪だ。この団地が築30年足らずで建替えに成功したのは、@駅近の利便性A約 1 万平方メートルの敷地に従前建物の延べ床面積は約 5,500 平方メートルしかなく余剰容積率が十分あったことB区分所有者が 96 人と比較的まとまりやすい人数であった−ことなど建替え条件がそろっていたことなどが指摘できるが、やはり建替えの道筋をしっかり示した音頭取りがいたのが成功の大きな理由の一つだと強く感じた。

    
左から消火訓練、「まちの番」、「ベンチかまど」 

  
左からミニ縁日、ミニ朝市

(牧田 司 記者 2011年9月20日)