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収穫多かった6人の女性による「シニアの暮らし視察トークショー」


「Think of it before it's too late! 『フィンランド・デンマーク シニアの暮らし視察トークショー&サロン』


挨拶する小野さん

 建築家の吉田紗栄子さん(一級建築士事務所アトリエ・ユニ代表・高齢社会の住まいをつくる会理事長)、小野由記子さん(小野意匠計画代表・JID からだとこころのケアデザイン委員会委員長)ら女性6人が企画したトークショー「Think of it before it's too late! 『フィンランド・デンマーク シニアの暮らし視察トークショー&サロン』 」が9月7日、青山・AIDEC東京ショールームで行われた。

 トークショーは、吉田さんの友人関係に基づき今夏にフィンランドとデンマークを視察した経験をもとに企画されたもの。冒頭に挨拶した小野さんは「吉田さんの40年以上にわたる幅広い活動のおかげで実現した。視察経験を共有し、暮らしを設計していくきっかけになればと思っている」と語った。

 プレゼンテ−ターは吉田さん、小野さんのほか阿久津靖子さん(メディシンク 取締役・ヘルスケアデザイン研究室企画室長)、玉井恵里子さん(タピエ代表・ JID 正会員)、村井エリさん(一級建築士事務所 all 代表)、野口美有紀さん(インテリアデザイナー、小野意匠計画)。6人はそれぞれ15分間、コレクティブハウス、シニア住宅、ナーシングホーム、コロニーへーヴ、病院、障害者施設などについて報告した。参加者は定員いっぱいの60人。参加申し込みが多かったため、10月12日に同じ内容で再度行う予定。

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 世界一の長寿国の日本が、世界一の福祉国家のデンマークや国民が自立した生活が出来るよう国を挙げて取り組んでいるフィンランドに学ぶことはいいことだ。プレゼンテーターが異口同音に語ったように、高齢者が「自立」した生活を送っているのを聞いてうらやましい限りだ。

 しかし、吉田さんが「今日のデンマークの福祉も民意が政府を動かして戦い取ってきた側面がある。風土も歴史も異なる。わが国にそのまま輸入は出来ない。両国に学びながら次のステップを目指さなければならないし、世界一の長寿国として世界のモデルとなるようなシステムを構築することが大切」と語ったように、そのまま真似ることはできないし、現実は厳しい。

 記者もこれまでの取材を通じて厳しい現実を突きつけられた。特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームには体験宿泊もしたし、グループホーム、ケアハウス、高優賃なども取材した。特養では億ションのような立派さに驚く一方で、過酷なスタッフの労働条件を目の当たりにした。痴呆を加速させるような老人ホームの対応やグループホームの施設の劣悪さにあ然とした。サービスが伴わないのに、制度だけはがちがちになっているのに辟易した。

 そもそも「特別養護老人ホーム」などと2重3重の差別語がまかり通り、ことさら民間施設を「有料老人ホーム」などと呼ばなければならないのか理解できない。

 トークショーを聞きながら、昨年11月に取材した「第6回もうひとつの住まい方推進フォーラム2010 複合≠ナつなぐ地域の暮らしと福祉」での、主催者「もう一つの住まい方推進協議会( Alternative Housing & Living Association)」の代表幹事を務める千葉大教授・小林秀樹氏の言葉を思い出した。

 小林氏は「福祉施設はデイサービス、老人ホーム、短期入所施設など目的や機能が細分化されており、私たちの暮らしの実態にそぐわなくなっている。住宅と施設という硬直的な縦割り制度を見直し、私たちの暮らしの実態に近づけようとする複合・混合・連携・協働・総合・合築・中間などの言葉に代表される『複合の可能性を追及しよう』」と語った。

 今回のトークショーの「参加者は建築家やデザイナー、福祉関係者からデベロッパーやハウスメーカーの企画担当者まで実に多彩。いろいろな業種の方々に伝えることが出来た」と小野さんは笑顔を見せた。これも「複合」の視点と言えそうだ。


左から野口さん、村井さん、玉井さん、小野さん、吉田さん、阿久津さん

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 収穫の多い取材でもあった。一つは、デンマークやフィンランドの住宅は(高齢者住宅だからだろうが)専有部分を圧縮しながら、共有のリビング、ダイニング、その他の共用施設を充実させていることだった。これは、わが国のコンパクトマンションには応用できないか。北欧の住宅はバスタブがなくて困ったと皆さんは言ったが、バスタブはミストサウナで代用できないのか。風呂嫌いの記者はほとんどバスタブに入らない。ホテルのバスタブはむしろ邪魔だ。

 もう一つ。トークショーが行われた「青山・AIDEC東京ショールーム」は、建築家の吉村順三が設計したビルだった。音楽ホールとして42年前に建築されたもので、4本の柱で躯体を支える工法が注目されたという。その後、家具メーカーAIDEC社の事務所・ショールームに改造されたが、内装の一部はコンクリート壁がむき出しとなり、デザインとし取り込まれている。セパーナと呼ばれる穴や、寸法などが墨で書かれているのがそのまま残っていた。


AIDEC東京ショールームの壁面の一部

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 トークショーを協賛したウッドノーツブラインド社のカーペットやアクセサリーも見ることが出来た。同社は今年6月に設立されたばかりで、フィンランドテキスタイルカンパニー「WOODNOTES」社の製品の輸入販売を手がける。製品のほとんどはパイン、カバなどを原料とする「ペーパーヤーン」という紙で作られており、製品は防汚加工が施されているので汚れにくく環境にやさしいのが特徴。1400×2000のカーペットの正価は123,000円。


「WOODNOTES」社の製品(椅子は除く)

複合≠ナつなぐ地域の暮らしと福祉 AHLAフォーラム(2010/11/29)

(牧田 司 記者 2011年9月8日)