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中古マンション市場の将来は明るい 課題は価格調整

 ある大手不動産流通会社の営業所次長は最近の中古マンション市場について次のように語った。「震災の影響? そんなに感じていないですね。現に数字はそれほど悪くない。逆に、震災が怖いからといってマンションを買われる方がいらっしゃいますし、旧耐震のマンションでも現場を見て『意外に頑丈』ということが確認できるので買われる方もいる」

 また、別の大手流通会社の営業所所長も次のように語る。「確かに震災後は数字が大きくぶれています。『売り』が増えているのは、震災を経験して不動産を所有することがリスクになってきたので、とりあえず不要不急のものは処分して他の資産に移そうという動き。しかし、これは一時的なもので、ニーズは根強いものがあり、価格が調整されれば元に戻る。私どもの数字自体はそれほど悪くない。中長期の流れとしては、郊外のバス便物件とか旧耐震の物件は敬遠されるでしょうが、旧耐震についてはリスクをどう見るか。旧耐震の物件に住んでいる人がまた旧耐震を買われるケースは多い」

 こんな話もある。「私どもの担当する横浜の山の手エリアでは、件数は落ち込んでいるが、逆に単価が上がっているので売上高は伸びている。この前も、築5年のプレミアがついている物件は分譲時の価格より1,000万円ぐらいの高値で売れた。今後も売れるものと売れないものとの二極化は進む」と、ある大手不動産流通会社の営業幹部はいう。

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 この三氏の話を聞く限りでは、中古マンションの動きはそれほど悪くないと受け取れる。三氏の話を裏付けるように、大手不動産流通会社の今期の第1四半期(4〜6月)の数字はそれほど悪くない。単価が下落しているため売上高や営業利益は落ち込み気味だが、取扱高はどこも増やしている。 三井不動産販売の4〜6月の取扱件数は8,502件で前年同期の8,256件から3.0%増加。住友不動産販売も7,991件 (前年同期比0.2%増) と、第1四半期としては2年連続で過去最高を更新した。

 しかし、先に東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が発表した今年7月の「マーケット ウォッチ」によると、データは悲観的なものばかりだ。

 首都圏の中古マンションの成約件数は2,334件(前年同月比5.1%減)となり、震災後の3〜5月までは2ケタ以上の落ち込みだったのが減少幅は縮小したものの5カ月連続で前年同月比減少した。1u当たり成約単価も38.32万円(同2.9%下落)、成約平均価格は2,480万円(同3.4%下落)した。また、新規登録件数は14,943件(同28.2%増)で、16カ月連続して前年同月を上回っており、在庫も40,874件(同31.0%増)と増えている。

 つまり、震災の影響を受けて成約件数が落ち込み、単価も下落し、新規登録・在庫が激増している中古マンションのマーケットが浮き上がってくる。

 こうした厳しいデータを裏づけるものとして、内閣府の消費者態度指数がある。この調査は、今後の暮らし向きの見通しなどについて、消費者の意識を把握し、景気動向判断の基礎資料を得ることを目的に行われているもので、指数は「暮らし向き」、「収入の増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の4項目について、それぞれ「良くなる」に(+1)、「やや良くなる」に(+0.75)、「変わらない」に(+0.5)、「やや悪くなる」に(+0.25)、「悪くなる」に(0)の点数を与え、この点数に各回答区分の構成比(%)を乗じ、乗じた結果を合計して消費者意識指標(原数値)を算出したものだ。

 この調査によると、7月の消費者態度指数は37.0(前年同月比5.4ポイントマイナス)となっており、震災後の4月の33.1よりは改善しているものの、依然として厳しい数値となっている。指数が40を割ったのは、バブル崩壊後(平成3〜5年)と、バブル崩壊後の二番底といえるデフレスパイラルが進行した時期(平成9年半ばから平成11年初め)、小泉内閣が発足する直前からアメリカの 9.11同時多発テロが起きた時期(平成13年から14年初め)、そして、リーマンショック後(平成19年後半から平成21年初め)の4度しかない。今回の震災は、バブル崩壊やリーマンショックと同じぐらいの大きな影響を与えていることが分かる。リーマンショックから完全に立ち直れていない時期だけにダメージは大きいとも言える。

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 問題は、こうした厳しい状況をどう打破するかだ。記者は、中古市場のことはよく分からないが、冒頭に紹介した三氏のコメントにヒントが隠されているような気がする。成約件数が減り新規登録・在庫が激増しているのだから、単価を下げれば問題は解決する。市場は価格下げを要求しているのは明らかだ。

 単価を下げれば売れるということをレインズのデータからも読み取ることができる。例えば、都心3区の7月の成約件数は9.2%増加し5カ月ぶりに前年同月比がプラスに転じているが、単価はこの1年間で最大の下げ幅10.7%を記録している。このほか成約件数が大幅に伸びた城北エリア、埼玉・西部地区、埼玉・東部地区なども単価は過去1年間で最大の下げを記録している。

 しかし、全体的には価格調整は不十分だ。新規登録・在庫が激増しているにもかかわらず、単価はほとんど変わっていないからだ。首都圏の新規登録はこの1年間、毎月増え続けているが、過去1年間で単価が前年同月比でマイナスとなったのはこの7月の2.0%のみだ。また、在庫もどんどん積みあがっているが、単価はむしろ上昇し続けている。唯一、都心3区で新規登録も在庫物件も単価は前年比でマイナスに転じている。

 新規であろうと中古であろうと、首都圏のマンション市場は時計回りで動く。都心部の価格調整が進み成約が増加すれば、神奈川、埼玉、千葉へと波及する図式が描ける。埼玉も千葉も一部の地域を除き単価水準は坪単価にして100万円以下で、70万円台のエリアも少なくない。郊外の新築は坪100万円台の前半が相場となりつつあるが、新築より3割も安い単価の中古マンションが売れないはずはないと記者は思う。新築のプレーヤーが激減し、新規供給が途絶えている郊外部の中古マーケットにもっと注目していい。

 大雑把だが、収益(家賃収入)と投資利回り(5%)からして2,000万円(20坪)以下のファミリーマンションは絶対買い≠ニいうのが記者の基本的な考えだ。つまり、首都圏の賃貸マンションを想定した場合、賃料は最低でも坪当たり4,000円、20坪だと年間100万円の家賃収入があるはずで、利回りを5%とするとその物件価格は2,000万円になり、新築は土地代がただでも20坪で2,000万円以下は建たないというのがその論拠だ。

(牧田 司 記者 2011年8月18日)