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「更新料は有効」の最高裁判決で強まる「脱賃貸」

 賃貸住宅の更新料の是非をめぐって争われた裁判で、最高裁が「更新料は有効」と初めて判断を下したことが報じられた。

 記者は、合理的理由のない「更新料」や「礼金」の徴収は廃止すべきだと以前から考えていたが、今回の最高裁の判決は納得できるものでもある。「悪法も法なり」だ。貸主、借主双方が賃貸借契約で更新料の支払いに合意していれば、その契約は有効となるのは当たり前だ。法律に定めがなくても、商習慣や道徳、風習などは合法とされるはずだ。最初に更新料の条項を盛り込んだ契約書を交わしながら、あとから「不当」と訴えるのは筋が通らない。賃借人が最初の契約時に「ノー」というべきだろう。礼金もしかりだ。

 今回の最高裁の判決は、貸主にとっては「合法」のお墨付きをもらったようなものだが、それでも更新料や礼金は廃止すべきだと記者は考える。

 賃貸人にとって賃借人はいわばお客さまだ。お客さまから「礼金」や「更新料」を徴収するのは逆さまだ。むしろよく入居していただいた、長く住んでいただいたと礼金や更新料を賃貸人が支払うのならよく分かる。実際、入居促進のツールとして家電や家具をプレゼントする貸主もあるようだ。

 最高裁の判決に意を強くした貸主サイドが更新料の徴収を今後も続ければ、「争っても勝てない」と判断するユーザーの「脱賃貸」志向はむしろ強まるのではないかと考える。支払いの理由がよく分からないお金など払いたくないと考えるのは当然だからだ。「家賃の前払い」などといわれても納得できるわけがない。

 そうでなくても、脱賃貸を志向する理由は他にもたくさんある。いわゆる「分譲を買ったほうが得」という明確なデータがそうだ。ここで、長々と書くつもりはないが、ざっくりと見てみよう。

 東日本不動産流通機構(レインズ東日本)の直近のデータによると、首都圏の中古マンションの成約平均単価は127万円、成約平均価格は2,489万円、成約平均面積は64.60u、平均築年数は18.69年となっている。一方、不動産経済研究所のデータによると、首都圏の新築マンションの平均価格は4,626万円、平均坪単価は216万円、平均面積は70.67平方bだ。

 これに対して賃貸住宅はどうか。賃貸住宅には、中古マンションや新築マンションに照応するデータはないが、2LDK〜3DKの関東圏の平均家賃は12万円だそうだ。面積は不明だが50〜60平方bぐらいと推測される。

 仮に中古マンションを2,489万円(64.60u)で買って、変動金利2.475%、期間35年、毎月均等払いの住宅ローンで返済すると年間の返済額は約106万円だ。このほか初期費用に数十万円がかかり、管理費、固定資産税、都市計画税も払わなければならないから年間の負担額は130万円ぐらいになる。しかし、その一方で、ローン控除制度などの優遇策もある。

上記の賃貸住宅はどうか。この平均家賃に更新料が含まれるのかどうかは不明だが、更新料を含まないとすれば年間の家賃支払額は144万円だ。更新料が1〜2カ月分とすれば年間の支払い総額は156〜168万円となる。

 新築の場合だと年間のローン支払額は約198万円になるが、面積は約70平方bなので、同レベルの賃貸の支払額は更新料を含めれば分譲と同じぐらいになるのではないか。

 支払額を比べただけで分譲のほうが得となるのだが、問題は分譲と賃貸の基本性能・設備仕様の違いだ。これも一概には言えないが、分譲のほうが相対的に耐震性、遮音性、防犯性、その他のほとんど全ての点で上回っていることがデータで裏付けられている。

 さらに35年後だ。マンションの場合、ローンの支払いを終わった時点で資産価値がゼロになるケースはほとんどない。上記の例でいえば1坪当たり60万円ぐらいの価値が残るはずだ。売却すれば1,200万円ぐらいには手元に残ることになる。もちろん、「掛け捨て」の賃貸住宅の場合はそのようなものはない。

 このように数字で見ても明らかに分譲のほうが賃貸より負担は少なくて済む。分譲と賃貸の負担額を同じにしようとするならば、分譲の価格を上げるか金利を引き上げるか、賃貸の賃料を引き下げるかだが、いずれも難しい問題だ。中でも賃貸の場合は、空家率のアップで賃貸住宅の賃料引き下げ圧力は強まっているが、投資効率を最優先する賃貸サイドは家賃を下げるより投資効率のいいワンルームなどに供給をシフトするはずだ。更新料もまた、見せ掛けの月額家賃を低く設定することで、回転率や投資効率を上げようとする手段でもある。だからいつまでたっても賃貸の質は向上しない。

 貸主サイドは古い戦前の住宅の絶対量が不足していた時代の商習慣にしがみつかないで、徴収する合理的理由がない礼金や更新料を撤廃し、分譲と対抗しうる健全な賃貸市場形成を図るべきだろうと思うが、簡単にはそうならないだろう。賃借人の脱賃貸が強まり、分譲へシフトする流れはより強まると考えている。

(牧田 司 記者 2011年7月19日)