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三井不動産 「柏の葉キャンパスシティ」

スマートシティ見地取材会


マンション屋上に設置されている太陽光パネル(別の棟との2カ所に設置された太陽光で、共用部分の4%の光熱費をまかなうという)

 三井不動産は、同社が開発を進めている「柏の葉キャンパスシティ」で取り組んでいるスマートシティ、健康長寿都市、新産業創造都市の実現に向けた街づくりについて7月12日、柏市、東京大学、千葉大学と共同記者会見を行うが、この会見に先立つ9日、現地で報道機関向けの現地取材会を行った。

 取材会では、千葉大学で行われている国内最大規模の植物工場の研究施設、地域全体のエネルギー需給動向を一元管理する管理システム、太陽光発電、ビオトープ、自動立ち乗り二輪車「セグウェイ」などが公開された。

 「柏の葉キャンパスシティ」を中心とするつくばエクスプレス「柏の葉キャンパス」駅周辺では、千葉県が事業主体となる開発面積約272.9ヘクタールの土地区画整理事業が進行中。

 同社はすでに開業済みの商業施設「ららぽーと柏の葉」や駅前のマンション「パークシティ柏の葉キャンパス」 1 番街(977戸) 、現在分譲中の「パークシティ柏の葉キャンパス」2番街(880戸)のほか、分譲住宅約650戸、賃貸住宅約120戸、三井ガーデンホテル約200室、商業施設などからなる「148街区」がこれから開発されることになっている。

  
「セグウェイ」(左)とビオトープ(セグウェイは1台100万円ぐらいとか。最大速度は時速40キロ。公道は走れず、当面はマンションの管理員が巡回用に使用することが管理規約に定められているという。ビオトープの水は井戸水。ららぽーと柏の葉は館内で使用する約9割の水を地下水でまかなっているという)

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 千葉大の研究施設は見所が多く、今後の農業のあり方まで考えさせられるものだった。

 同施設は、農水省の補助事業として13億円の補助金が投じられている床面積約1.3ヘクタールの規模。同大学の植物工場研究開発は世界最高レベルとして知られており、国内外から注目を集めているという。事業と平行して企業などとの共同研究も行っており、60社が9つのコンソーシアムメンバーとして参画している。

 施設は太陽光型と人工型に分かれており、太陽型ではトマト(年間目標収穫 500 トン/1ヘクタール)が、人工型ではレタス(年間目標75万株)が生産されている。近く一般向けに実験販売もされるという。

 施設の説明を行った同大学植物工場拠点リーダー・丸尾達准教授によると、「施設は補助金で建てたが、中身については各企業が競争しながら生産を行っている。トマトは15円する種より安い1本10円以下の苗を育て、通常の施設栽培の5倍のヘクタール当たり1万本を生産する。従来型より生産は120%アップ、生産コストは55%ダウンを目指す。品質が均一な商品が通年供給できるのが強みだ。トマトが成功すれば、ほかの植物は何でも生産できる。レタスの生産コストは1株60円ぐらい」などと語った。

 記者は、問題は味だろうと思ったので「路地ものよりまずいのでは」と質問した。丸尾准教授は「全然問題ない。甘み、酸味もコントロールできる」と胸を張った。実際に試食してみた。記者は毎日のようにトマトを食べているから味がよく分かるのだが、確かに美味しかった。ただ赤いだけのスーパーで販売されているものと異なり、昔食べた本物のトマトの味がした。

 レタスは、ほとんど食べないので試食しても美味しいのかまずいのか判別できなかった。隣の女性記者は「甘みがあり、美味しい」と話していた。


千葉大の施設で育成されているトマト(根っこへの水遣りはミスト状にして酸素を供給したり、レタスの葉っぱには薄い布越しに優しい光を当てるなど、至れり尽せりの施設だ)

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 このような施設で生産される野菜を広く流通させるためには農地法や税制面での規制緩和が必要だとも聞いた。農作物は基本的には土で育てることが前提で、施設の中で養液栽培することなどは農地並課税の優遇策は適用されないのだという。

 味が均一で安全・安心な野菜が供給されるのならば、規制は取っ払うべきだろうと思う。しかし、その一方で、このような商品が広く生産されるようになったら一般の農家は経営が成り立たなくなるのは間違いない。森林も危機的状況にあると聞くし、山が荒れ、畑が荒れ、里が荒れたらわが国の農林業や美しい田園風景はどうなるのだろう。

 ハイテクによって食材コントロールされ、人間もまた優秀な人材だけが生き残れる国家プログラムに組み込まれれば、記者のような劣等な種は淘汰されるだろう思うと空恐ろしくなる。


施設について説明する丸尾准教授(施設は企業間の競争も激しいようで、屋根の形状なども同じではない) 

(牧田 司 記者 2011年7月9日)