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マクロデータを過信するな 大事なのはミクロデータ


  東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が先に発表した3月の首都圏の中古マンション・中古戸建ての成約レポートにはショックを受けた。東日本大震災の影響で、中古マンションの成約件数は前年同月比19.2%も減少し、昨年11月以来の前年割れとなったという。千葉県は3割超の減少で、千葉市は半減した。中古戸建ても前年同月比17.8%減少したという。

 記者は、中古市場はよく分からないが、震災の影響がこれほど大きいとは思わなかった。そこで、昨日行われた不動産協会の総会の懇親会に出席していた大手不動産流通会社の幹部に震災の影響について聞いた。

 不動産流通経営協会(FRK)理事長で、業界3位の東急リバブル・袖山靖雄社長は、「FRKとしてはコメントしづらいが、東急リバブルは4月からお客さんが戻ってきた。そんなに落ち込んでいるわけではない。他社にも聞いて欲しい」と語った。

 ならばと、業界2位の住友不動産販売の本橋武彰常務に聞いた。本橋常務は、「中古市場は実需ですから、落ち着けば戻ってくる。購入動機は結婚とか、子どもの成長とか、賃貸からの住み替えとか、はっきりした事情がある。投資マーケットは影響を受けるかもしれないが、エンドユーザーのニーズは変わらない。当社はそんなに落ちていない。レインズ? 統計の取り方がよく分からない」と、それほど落ち込んでいないという。

 業界トップの三井不動産販売にも聞こうと思ったが、散会間際だったので幹部はすでに退席していた。そこで、同社広報からコメントをもらった。広報は、「4月からお客さんが戻ってきたというのは他社と同様。確かに3月は新浦安など震災の影響が大きかったエリアでの成約は減少しているし、レインズのデータにも反映した。業容によってレインズのデータと異なることはありうる」と答えた。

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 これで納得した。レインズのデータはマクロデータであって、各会社の成約状況とは必ずしも一致しないということだ。

 これは新築マンション市場にも言えることだ。記者は20年ぐらい新築マンションと戸建ての販売状況を調べたことがある。マンションを例に取ると、売れ行きのバロメータとして「月間契約率」がある。当月に分譲されたマンションが当月末までにどれだけ売れたかを示すデータだ。「好調」ラインは70%超で、80%を超えると、これはむしろ異常、過熱現象だ。逆に60%台となると「不調」だ。

 ただ、月間契約率というマクロデータは曲者だ。おおよその市況は分かるが、必ずしも正確ではないということだ。分かりやすく説明しよう。ある50戸のマンションが分譲され、月内に全て完売したとしよう。月間契約率は100%だ。もう一つの50戸のマンションは月内に1戸も売れなかったとしよう。月間契約率は0%だ。両方をあわせると月間契約率は50%。この場合、マンション市場は好調なのか不調なのか。誰にも答えは出せない。

 実際のマンション市場ではよく起こる現象だ。マンションの売れ行きは、デベロッパー間やエリア別、施工会社別、あるいは用途地域別などで異なってくる。個別ミクロデータを見ないと、マンション市場を正確に捉えることはできない。

 あらゆる業種でもそうだろうが、マクロデータを過信すると現状を見誤るし、方向性を見失う。震災は、マンション市場にどのような影響を与えるか。単に月間契約率ではなく、ミクロデータを重視しなければならない。中古マンション市場で言えば、記者は旧耐震の物件がどのような評価を受けるのか非常に興味がある。

(牧田 司 記者 2011年4月27日)