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早川和男名誉教授の主張は分からないわけではないが…

 
  神戸大学名誉教授で「住宅貧乏物語」などの著書で知られる早川和男氏が業界紙「週刊住宅」の「東日本大震災 復興への提言」へ寄稿されていたので読んだ。

 早川氏は、「原発の問題」「巨大都市問題」「国内林業の振興」「居住福祉」「コミュニティ」「住まい」などについて様々な提案をし、「考えてみれば、住宅産業、不動産業は居住福祉、国土保全などのすべてにかかわり、かつ平和産業である。私たちが身を寄せるこの日本のどこに住んでも安全で安心して生きられる『日本列島の居住福祉改造計画』が、大震災を契機にこの業界で改めて強く意識されるべきでないか」と述べている。

 記者は、その主張に賛成しかねるが、業界人として耳を傾けなければならない点も多いと思う。

 まず、原発問題だ。記者は門外漢だから分からないが、原発に頼らない自然エネルギーへの転換はそう易しくないと思う。都市林、街路樹、河川、湖沼などで夏の酷暑を緩和できるとは思わない。ただ、マイカーを縮小するという主張には大賛成だ。車を捨てれば、現在の居住水準より3割は向上すると思う。「車がないと生活できない」というのはうそだ。公共の移動手段を奪ったことこそに問題があると思っている。

 都市機能を分散し、人口の集中を抑制するのも賛成だが、これも容易ではない。早川氏は「エレベータの必要な高層住宅は止め、集合住宅は3階以下にする。低層高密度のタウンハウス形式はコミュニティをつくりやすくし、高齢者が住みやすく、子どもの環境としても好ましい」と主張する。考え方として分からないでもないが、現実的でない。確かに、記者も低層マンションは個人的に好きだ。タウンハウスが分譲された昭和50年代後半から60年代にはのめりこむように取材した。20団地は見学した。

 低層マンションでは、三井不動産が昭和50年代に積極的に供給し、ほとんど即日完売したのもよく覚えている。同社のマンションブランドは、この低層マンション供給時代に構築されたと記者は思っている。

 しかし、時代は変わった。ユーザーは郊外の生活環境より都心の利便性を重視した。タウンハウスは結局、定着しなかった。タウンハウスというハードにコミュニティというソフトの魂を吹き込む作業を怠ったからだ。

 国内林業の振興にも異論はない。都市問題は農林漁業問題だ。都市の発展は、農林漁業の破壊の歴史だとも思う。こかし、これも「言うは易く行うは難し」。都市と農村が共存するパラダイム転換を推し進めるリーダーがどこにいるのか。

 「福祉居住」「コミュニティ」については、「もう一つの住まい方推進協議会( Alternative Housing & Living Association )」(代表幹事:小林秀樹千葉大教授)が唱える「特定住居」の提案が参考になる。同協議会は「利用者の視点」「担い手の視点」「建築計画の視点」が重要とし、混合・連携・協働・総合・合築・中間などの手法を「複合」して「縦割り制度」を打破することが可能だとしている。

 早川氏は、「住宅・不動産業関係者にいちばん読んでほしい本」として「日本の居住貧困〜子育て/高齢障害者/難病患者」(共編著、藤原書店)を上げているので、ぜひ読んでみたい。

(牧田 司 記者 2011年4月19日)