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都営辰巳団地は軒並み2030p地盤沈下

液状化被害 〜現地ルポ〜


地盤沈下した分、コンクリートでステップが付け足されている(辰巳団地で)

 「晴海」「豊洲」「有明」は、液状化の被害を全く受けていないことが分かり、取材の目的は達せられた。事務所に戻ろうと思ったが、ついでに「東雲」も見ることにした。ここでも正友地所と東急不動産がマンションを分譲中だし、野村不動産、三井不動産も分譲予定がある。隣の「辰巳」では東京建物のマンションもある。

 有明から東雲まで歩きながら通行人に東雲の液状化について訪ねたが、やはりほとんどないことが確認された。

 ここで道を間違えたのが幸いした。駅に向うには右に折れなければならないのだが、真っ直ぐ進んだために、いかにも古いマンションが目に入った。都営東雲一丁目・二丁目アパートだった。液状化より地震の被害があるかどうか確認することにした。地盤が少し沈下していた。液状化の痕跡もわずかだが見られた。近くにいた人に聞いた。東京都住宅供給公社の職員だった。職員も被害状況を調べているとのことで、この団地は築35年ぐらい経過しており、地盤は年々沈下していると話した。そして、「ここより辰巳がひどいことになっている」と語った。

  
都営東雲一丁目・二丁目アパート

 3時間以上ずっと取材しつづけており、疲れも感じていたが、「ここよりひどいことになっている」言葉につられて有楽町線辰巳駅まで歩くことにした。何人かの通行人に聞いた。液状化について知っている人はいなかった。

 とりあえず、駅前から延々と広がる「都営辰巳一丁目アパート」を見ることにした。駅に一番近い高層棟のエントランスを見て、目が釘付けになった。エントランスのステップ1段分が真新しいコンクリートで付けたされていた。約20pだ。明らかに地震による地盤沈下で、応急処置としてステップが1段追加されたのだ。

 団地の中に入った。凄まじい光景が目に飛び込んできた。千葉市美浜区でみた高浜南団地と同じ光景だった。地盤が軒並み20〜30pぐらい沈下し、地下部分にあった汚水管、雑排水管がむき出しになり、いたるところで断裂していた。地震後4週間近く経つのに穴の中には雑排水らしき水が溜まっているところがあった。同じような光景は10数棟もあった。運び出した土砂はトラック28台分あったという。

  
都営辰巳団地                       断裂した柱(構造の柱ではないようだ)

 入居者に聞いた。「息子が小学1年の時、昭和46年に抽選に当たり入居しています。地震が起きた時は怖くて飛び出し、(内)階段の手すりにしがみついていました。年齢? もう80近いですよ」

 昭和43年から住んでいるという別の80歳代の入居者は、「箪笥は倒れるし、2台あったテレビも壊れた。冷蔵庫の扉が開き、中のものが飛び出しちゃった。傾いている? よくわかんない。戸棚が自然に開いちゃうけど…。ビー球転がすには板の間がないし…」

 記者の目視だが、建物が傾いた住棟は1棟もない。

  
汚水管、雑配水管を修理する業者の人       雑排水がたまっている穴

◇     ◆     ◇

 取材を終え、帰ろうとした。団地内の公園に入居者らしい人が10人ぐらいいた。ベンチに腰掛けている組と、将棋に夢中になっている組だ。「聞くこともない」と思いながら話し掛けた。取材OKだった。

 最初に記者がジャブを放った。「みなさん、平均年齢は80歳? 」 すかさず右からパンチが飛んできた。「てゃんでぇ、おれはうるう年だ。2月29日生まれ。4年に一度しか歳とらねぇんだ」 次に左からストレートが飛んできた。「おれは82。戦争? (『非国民』の声)非国民じゃねぇ。行きたかったけど、宮崎の学生だったんだ…。ひどいもんだ。終戦の時より今回のほうがひどい」

 その後は、てんでんバラバラになった。「被爆国が原発なんか作っちゃダメ」「森田(千葉県知事)は何やっとる。新浦安に飛ばなきゃ」「この団地は来年から建替えだから、補修なんかやんないだろう」「われわれは酸いも甘いも知りつくしているんだ。まともに話し聞いちゃダメ」「自治会長? あの赤ジャン」「会長、コメントください」(記者)「会長? いねぇよ」「俺らの話、聞いても編集長にみんな没にされちゃうぞ」「私が編集長。名刺渡したでしょ」(記者)「おお、そうか。おれ、目がみえねぇんだ」

 別れ際、誰かれなく「みんな狂っとる」と話した。記者は「狂っとるのは…」と言い返すのをこらえ、「私も含め、皆さん生き方だけは真っ直ぐ生きましょう」と返事した。将棋組はもちろん一言も発しなかった。

 後ろから「ちぇ、調子のいい野郎だ」という声を聞いたように思ったが、振り返らなかった。ここには「日常」と「非日常」が渾然一体となった不思議な世界があると思った。

道端には、別名「ベツレヘムの星」の「ハナニラ」が春を告げていた。野良ネコは「ニャオ」と甘えてくれた。

  
辰巳団地の入居者の方々

◇     ◆     ◇

 都の資料によると、都営辰巳一丁目アパートは1967〜1969年に建設された全3,306戸の規模で、一部高層棟があるがほとんどはエレベータなしの5階建てだ。棟数にすると60棟ぐらいあった。住戸面積は33〜38u。都は、築40年を経過した都営住宅については順次建替える方針のようだ。

  
ハナニラ                            きっとメスネコ

(牧田 司 記者 2011年4月7日)