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マンションも戸建ても巨大地震に強かった

世界に誇れる建築技術


  当欄で既報の通り、高層住宅管理業協会(管理協)は、東北6県で管理するマンションの震災被害状況をまとめ公表した。1,597件を目視で調査した結果、倒壊や建替えが必要な致命的被害を受けた「大破」はゼロで、大規模な補強・補修が必要な「中破」は1.7%に当たる27件、タイルの剥離、ひび割れなどの補修が必要な「小破」が17.3%の276件、外見上ほとんど被害がみられない「軽微」が70.0%の1,119件、「被害なし」が11.0%の175件というものだ。

 調査は目視によるもので、必ずしも専門家が調べたものでないので、今後の詳細な調査を待たなければならないが、少なくとも震度6〜7でマンションが倒壊しないことが証明された。東北6県の多くのマンションは「新耐震基準」を満たしていると判断できる。

 そこで記者は、「『大破ゼロ』震度6〜7にも耐えた東北6県のマンション」と見出しを打った。戸建ても、震度7を記録した栗原市では倒壊事例は少ないと聞いている。太平洋に面した高台の住宅30戸は大きな被害がなく「中破」が1件のみだったという報道もあった。

 管理協のこの調査結果を報じた業界誌は「マンション被害、70%が軽微」という見出しだった。もうひとつの業界紙は「東北地方のマンション 89%に何らかの被害、大破はなし」という見出で、もう一紙は今回の調査結果については報じていないが、先の速報の段階で「東北のマンション21%が損傷、大破はゼロ」と見出しにつけていた。速報の段階でも、記者がつけた見出しは「東北エリア マンション大破はゼロ」だった。

 「70%が軽微」というのは穏当な見出しだろう。しかし、「89%に何らかの被害」「21%が損傷」という見出しは、どう考えても理解できない。「新耐震」基準は、震度6〜7程度では建物が倒壊せず、人的被害を最小限に抑えようという基準だ。建物の壁に亀裂が入ったり、タイルが剥落したりするのは「想定内」のことだ。想定内のことを、見出しで強調するのはいかがなものかと思うからだ。

 建設業界もハウスメーカーもデベロッパーも機器メーカーも、いかにコストを抑制しながら地震に強い建物が建設できるかに心血を注いでいる。阪神・淡路の震災後、免震・制震が増え、姉歯事件をきっかけに構造チェックが厳しくなった。今でこそ当たり前になった「低床バス」は、阪神・淡路の仮設住宅に設置されたのが最初だった。お年寄りに段差の少ない、「またぎ」の低いものを提供しようというメーカーの努力が実ったものだ。わが国のマンションも戸建ても世界に誇れる技術水準にあると確信している。

 「89%に何らかの被害」というのはそれほど深く考えてつけたのではないだろうし、読者も「ささいなこと」と思われるかもしれない。しかし、実際に被災地を見れば、このような的外れな見出しはつけないはずだとも思った。液状化で甚大な被害を受けた新浦安や千葉市美浜区のマンションはビクともしなかったし、戸建ても傾いた住宅は少なくなかったが、それでも敢然と立(建)っていた。

 震災でどれほどマンションや戸建てがダメージを受けたかは、専門家の解析が必要だが、記者はやはり「マンションも戸建ても強かった」といいたい。「89%に何らかの被害」では、マンションが泣く。

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 なぜ記者がこのところ身内の業界紙批判を繰り返すのか。それは、このようなときだからこそ頑張ってほしいからだ。今回の震災についてはマスコミが連日報じている。一方的に流されるテレビも迫るものがあるが、紙媒体の記事は、被災者と記者の心がしっかりつながっていることが手に取るように伝わってくる。だから迫力があり、読者にも感動を与えるのだ。

 ある業界紙はお見舞い文で「私たちはいつもみなさまのそばにいます」と書いている。是非、実践して欲しい。未曾有の危機だからこそ、業界紙の役割も大きい。批判は「がんばれ業界紙」という意味に受け取って欲しい。

(牧田 司 記者 2011年4月4日)