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「不動産業は人々に夢と感動を与えられる産業」

三井不動産・岩沙弘道社長 入社式挨拶


岩沙社長


 三井不動産代表取締役社長・岩沙弘道氏が平成23年度入社式で行った挨拶(抜粋)を紹介する。岩沙社長の挨拶は、住宅・不動産業に入社した全ての新入社員に当てはまるメッセージだし、しっかりと心に留めてほしいからだ。

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 皆さん、ご入社、おめでとうございます。人生の門出となるこの日に、私の思うところをお話したいと思います。

 はじめに、東北地方太平洋沖地震により不幸にもお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に、心からお見舞いを申しあげます。三井不動産グループは、街づくり・地域再生に携わる企業として、被災地の一日も早い復興に、可能な限り貢献していきたいと思います。

 ここに、哀悼の意を表し、黙とうを捧げたいと思います。(「黙とう」1分間)

 今般の一連の災害と事故、そしてそれに伴う電力供給不足という不測の事態が、景気回復の兆しが見え始めていた日本経済に与える影響は甚大です。しかし、私たちはただ悲嘆にくれるのではなく、これらを前途ある未来を切り開くための試練と受け止め、ポジティブな議論を活性化させていくことが、きわめて重要だと思います。

 政府が描いた「新成長戦略」にあるように、私は「東京をはじめとする大都市の国際競争力を高めることが、国の成長に直結する」と考えています。今後、私たち不動産業界の本業である「街づくり」や「住宅」は、国の成長にとって大変重要な役割を担うといえるでしょう。私たちは、この仕事に誇りを持つとともに、社会的な責任の重さを自覚し、積極的に試練に挑むことが求められます。

 そして業務遂行にあたっては、三井不動産グループのステートメントである「都市に豊かさと潤いを」、そして環境ビジョン「& EARTH」(アンド・アース)」の意味合いをしっかりと理解して取り組んでいただきたいと思います。街づくりの推進と魅力的で豊かなすまいとくらしの 実現が我々の使命と心得、高い環境意識を持って、日本の社会・経済の発展に貢献していく志を持ってください。

 三井不動産グループの歴史は、それぞれの時代の社会経済の不連続な変化、すなわち パラダイムの転換をとらえた、新たな価値創造の歴史です。その歴史の中で培われた三井不動産グループのDNAは、新たな価値創造にイノベーティブに挑戦する姿勢といえるでしょう。

 現在我々が迎えている日本の社会・経済の「成熟化」と、全世界的な「グローバル化」という ふたつのパラダイム転換は、私たちの将来の価値創造に夢を与えてくれます。変化をチャンスととらえ、お客様の期待・課題・悩みがあるところに、不動産に関するグローバル・ソリューション・パートナーとしての私たちのビジネスチャンスがあり、それを実現していくのは他でも ない諸君らであるという自覚を持って、日々の業務に取り組んでほしいと思います。

 ここから、新たに三井不動産グループの一員となる皆さんに期待することを申しあげます。

 まずは、「自立した個人」になるということです。今後は、自立した個人が会社のビジョンに自らの志を重ね合わせ自己実現を果たしていくことがますます重要になります。

 二つ目は、「ポジティブな発想」で臨むということです。不透明な状況下で難題を前にしたときでも、できない理由を考えるのではなく、どのように実現するかを考えることを習慣づけてください。

 三つ目は、「幅広い視野を持つ」ということです。あらゆることに好奇心を持って、社内外を問わずネットワークを広げ、外向き指向で物事を見る視野と人間の幅を広げてください。そのような思いで、今年から必修となる海外研修にも臨んでもらいたいと思います。

 四つ目に、「心と体の健康」を大切にしてください。自立した個人としてポジティブな発想で臨むための前提として、自分の健康は自分で管理することが基本です。仕事のオンとオフを意識して行動し、心と体の健康について十分な自己管理を心掛けてください。

 最後に、「社会人としてのコモンセンスを持て」ということを申しあげます。「やって良いことと、悪いことを見極める」、「おかしいと思うことは正す」といった、ごく当たり前の常識を大切にしてください。そして、コンプライアンスの精神にかなった行動をとるようにしてください。法律・規則は、守るべき最低限のルールであり、その精神に反する行為も許されない、という価値観を身につけることです。

 私は、不動産業は社会的意義が大きく、人々に夢と感動を与えられる産業だ、と思っています。これから、諸君の生活のかなりの時間を仕事に振り向けることになります。お客様のために汗をかくことにより、社会と自分とのかかわりを実感する。そして「仕事を通じて自らを 高めていく」という揺るぎない気持ちを持つ。これらの繰り返しが、諸君を社会人として成長させるとともに、悔いのない青春を過ごした、という自信につながるのではないか、と思います。 三井不動産グループがさらに魅力あふれる企業グループとして成長しつづけられるよう、共に頑張りましょう。

以 上

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 記者も同感だ。住宅・不動産業界に入社された「社会人1年生」に同様のメッセージを送りたい。

 皆さんは、極めて困難なときに社会人として一歩を踏み出された。政治家などはよく「危急存亡の秋」という言葉を使うが、記者は初めてこの言葉を用いる。軽々しく使うべきでないと思っているが、今回はまさにそのときだと思う。

 正直に言って、「入社、おめでとう」という声を掛ける心境にはなれない。記者は、バブル崩壊もリーマン・ショックも経験した。バブル崩壊のときは、「もう二度とこんな苦しい時代は経験したくない」と思った。それから20年しかたっていないのに、100年に一度といわれたリーマン・ショックだ。その傷がまだ癒されないのに、今回の震災と原発だ。「どうして、なぜ」という言葉しかない。ダメージはバブル崩壊よりもリーマン・ショックよりも数倍だろう。どうして「おめでとう」などという言葉が掛けられようか。

 しかし、岩沙社長が語りかけたように「不動産業は社会的意義が大きく、人々に夢と感動を与えられる産業」だと確信している。危急存亡の秋だからこそ、若い皆さんの「元気」がみんなに勇気を与えるはずだ。今朝、出社するとき、 目がキラキラと輝くかわいい新入社員と思われる女性に大きな声で「おはようございます」と声を掛けられたのがものすごく嬉しかった。

(牧田 司 記者 2011年4月1日)