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プライム経済レポート

「トヨタ車リコールが日本に問いかけるものは」

〜不動産ビジネスカレッジLA校 ジャック・才田氏〜

 

 ワンズが報道陣向けに定期的に公開している不動産ビジネスカレッジLA校のジャック・才田氏による「今月の経済レポート」が届いたので、ほとんど原文のまま以下に掲載します。

 あのトヨタがまさかのリコールで大問題に発展しつつある。フロアマットに始まってアクセルペダル、ついにはハイブリッド車のブレーキやヘッドライトにまでリコールが波及している。現在リコール対象車は500万台といわれるが、ハイブリッド車まで入るとその数がさらに増加して1,000万台に達する可能性がある。米国議会までが調査委員会を設置して徹底追及に当たるようである。

 ダメージコントロール(損害を最小限に抑えること)という言葉があるが、まさにトヨタは今ダメージコントロールをどのようにすればよいかという正念場にある。一部のメディアで報道されているトヨタ車が走行中に急加速してコントロールできなくなるというユーザーからの苦情を無視したわけではないと思うが、適切な対応をタイムリーにしなかった事実があるとすればすでに初期におけるダメージコントロールで失敗したことになる。 ダメージコントロールにおいて企業トップが消費者の苦情をくみ上げない、必要とされる事実を公表しない、対応が遅い、躊躇するといった行為をとってはならない。火事と同様早期に適切な対策がとられた場合そのダメージは最小限に抑えられている。

 米国における車の大型リコールといえばこれまで私が知る限りで1970年代フォードピントと1980年代のアウディ 5000のケースが思い起こされる。しかしリコール台数や17%といわれる米国におけるトヨタ車のシェアからして今回トヨタのリコール問題は最大級である。

 フォードピントは1971−1980年に生産された小型車で、斬新なデザインで人気を得ていたが、燃料タンクが後方からの追突によって火災発生し致死事故に至る事故が相次ぎ被害者からの苦情が殺到した。リコールはフォードがデザインを重視するためにガソリンタンクの位置とデザインを軽視した結果と見られている。フォード社の売り上げは大きく落ち込みブランドの信頼も薄れている。

 アウディ5000は日本やヨーロッパではアウディ100の名称で親しまれたセダンで1978−1986年まで生産された。パーキングの位置からドライバーがドライブかバックかに切り替えるときに突然急発進してコントロールできなくなる苦情が殺到した。これは今回のトヨタ車の問題と類似している。当初アウディは問題がフロアマットにあるとし、その改善をするが苦情は収まらず、 2 回目のリコールではアクセルペダルが足に引っかかりやすいということでアクセルペダルの裏に板を入れることによりブレーキとアクセルの両方を間違えて同時に踏むことのないように改善したが、この段階でアウディは一切同社側の非を認めずドライバーの動作ミスによるものと主張していた。

 この頃からアウディ被害者の会が各地にでき、消費者がグループで訴訟を始めた。アウディは3回目のリコールでアクセルペダルとブレーキペダルとの距離をもう少し離す改善を行うが、一向に非を認めない同社に対して被害者、そして世論の批判が過熱化していく。3回目のリコールの改善を実施する代わりにアウディは4回目のリコールでオートマティックシフトロックと呼ばれる改善によりブレーキを踏まないとトランスミッションがパーキングポジションからシフトしない防止装置を提案した。

 米国高速道路安全協会(NHTSA)ではアウディに対して調査を行ったが、結局同社に対してオートマティックシフトロックを装着するよう勧告しただけに終わった。 NHTSA はそれまで5年間結局アウディに対して適切な対策をしていなかったことは、対応がまずかったアウディだけではなく同協会に対しても批判が続出することになった。

 アウディの売り上げは大きく落ち込み、1985年米国で74,000台の売り上げ台数は1991年には12,000台にまで下落し、一時倒産の危機に瀕している。その影響で米国におけるアウディ人気はつい最近まで日本などに比べて一向に上がらなかったことを見ても大型リコール、それに次ぐ訴訟や不買運動が企業イメージに与える影響は大きい。訴訟が日常茶飯事となっている米国社会では、リコールによる集団訴訟が各地で発生し和解が長期にわたって難航する可能性もある。

 トヨタはこれまで日本製品の高品質と信頼性を代表するようなブランドであり、世界中の人々が日本製品を愛する大きな原動力となっている。米国国産車や欧州車、そして後発の韓国製に比べても高品質でお買い得感があるから、 GM を抜いて一時世界一の自動車メーカーとして君臨できたと考えられる。 今回のリコールでトヨタのイメージダウンが一時的であって欲しいと思うが、今後のサービス対応策や被害者に対する補償、 PR などを早急にしかもしっかり戦略として打ち立てていかないとさらなるダメージもありうる。

 また今回の事件は日本のものづくりに対する新たな難題を投げかけることになった。これまでトヨタや日本車メーカーにシェアを圧倒されてきた米国メーカーや新興国メーカーはこれぞとばかり販売攻勢をかけてきている。日本経済にとって自動車業界は世界市場で通用する牽引車的存在であり、そのスケールと影響力においてそれに取って代わる新たな産業はまだ出現していない。単に一企業のリコールというだけでは済まされない気がする。日本経済全体への挑戦だともいえる。

 トヨタはGMを追い抜いて世界一になることに力を注ぎ込んだために下請け業者などの管理体制を以前に比べて怠っていたという指摘も聞かれるが、今はその真偽を問うよりも一日も早く消費者の信頼を取り戻すことが肝心である。

◇     ◆     ◇

 このトヨタ車のリコール問題にも、不動産業界にも共通する問題と思われるので、以下にベッツィ・サンダース著「サービスが伝説になる時」(和田正春訳、ダイヤモンド社刊)の「苦情の実態」を紹介する。

苦情の実態

1)不満をもつ顧客のうち苦情を言うのは4%に過ぎない。あとの96%はただ怒って二度とこないだけである

2)苦情が1件あれば、同様の不満を持っている人は平均26人いる。そのうち6人は非常に深刻な問題を抱えていると推定される

3)苦情を言った人のうち56〜70%の人は、苦情が解決された場合、その企業と再び取引したいと考える。その比率は、解決が迅速に行われた場合、96%まで跳ね上がる

4)不満がある人は、それを平均9〜10人の人に話す。13%の人は20人以上に話している

5)苦情が解決された顧客は、そのことを5〜6人に話す

(牧田 司 記者 2010年2月11日)