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「国家ビジョンが見えない建基法検討会」

ある現場専門家が語る

 

  確認審査の迅速化、申請図書の簡素化、厳罰化の3つの視点で建築基準法の改正作業が行われることになっているが、建築行政に一家言持つあるハウスメーカーの関係者に話を聞いた。

 関係者は開口一番、「国家のビジョンが大事。どのような国にするかを論議しないと、各論の話をしてもまとまらない。それぞれスタートラインが違っていたら、ゴールに一緒にたどり着けないのと一緒。今回の(建築基準法の見直しに関する)検討会に私はそんなに期待していない」とバッサリ斬った。「一歩間違うと、改悪になる可能性もある」と警告も発した。

 関係者の言う国家ビジョンとはおおよそ次のような方向だ。「日本は完全に国際競争力を失っている。鳩山さんが打ち上げたCO2削減計画もいずれ各国から餌食≠フ対象になるのではないか。EUは厳しい削減計画を打ち出しているが、基準となる数値はソビエトの崩壊など経済状況が悪かった 1990 年時。日本などと比べてハードルは極めて低い。日本が行き詰まりになるのは目に見えている。地球の温暖化だって、部分的には進んでいるかもしれないが、1500年周期説もあってどうなるか分からない」という。

 こうも言った。「これから成長が見込める航空産業、宇宙産業、エネルギー産業などに集中投資し、国際競争力を身につけないといけない」

 建築行政については「10年前まではともかく、最近の住宅・建物はそんなに劣悪なものはない。国は完璧なものを求めるが、責任をとらない。責任逃れのために民間の負担と責任を求めている。基本的には最低限の基準を設け、あとは民間が競い合っていいものをつくり、その努力が評価される活力ある社会を築かないといけない」と主張する。

 長期優良住宅にも注文をつける。「国は200年住宅だ、長期優良住宅だとばら撒きをやっているが、結局は国の権限を拡大しようとしている。担保価値がある中古住宅は、金融の裏付けがないから評価されない。都市計画も絶対高さの規制ばかり考え、メリハリのある街をつくろうとしない。なんだか、国は没落の道を進もうとしているとしか思えない」と語った。

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 関係者は舌鋒鋭く語った。その一方で、関係者は「業界団体の中では、国に遠慮してか、賛成する人が少ない」と自嘲した。

 そして最後に記者にこう言った。「憲法99条を知っていますか。99条は天皇や国、公務員に憲法を守る義務があると定めているんです。つまり、国や公務員にはそもそも法律の解釈権はないんです」と。

 あとで憲法99条を調べたら、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と書かれていた。記者は高校のとき、倫理社会科でこの99条について学んだような記憶がかすかに残っているが、最近の学校ではほとんど教えないのではないだろうか。

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 関係者は、「私の意見に賛同する人は少ない」と語ったが、そうではない。先の検討会で「ビジョンがない」と語った委員もいたし、この関係者と同じようなことを語った同じ一級建築士がいる。この一級建築士のことについては、日を改めて書く。

(牧田 司 記者 2010年3月26日)