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「建築基準法の見直しに関する検討会」はどこに進むのか


「建築基準法の見直しに関する検討会」


  国土交通省は3月8日、建築基準法の見直しを検討するため有識者や実務者などから構成する「建築基準法の見直しに関する検討会」(座長:深尾一・首都大学東京都市環境学部都市環境学科教授)の第1回会合を行った。

 検討会は、今回の第1回を皮切りに第2回は設計関係、第3回は施工・生産関係、消費者・保険関係、第4回はユーザー関係、審査関係の各分野別に各委員の意見発表会を行い、その後、テーマ別の意見交換会を経て夏ごろをメドに意見とりまとめを行う。

 今回は、建築基準法の制度について、国交省事務方から事前のヒアリングで寄せられた声の紹介、確認審査の迅速化、申請図書の簡素化、厳罰化などについて報告がなされ、引き続いて全25委員がそれぞれ意見を述べた。

 冒頭で挨拶した馬淵澄夫国交副大臣は、「確認審査の迅速化、申請図書の簡素化、厳罰化という3つの視点からゼロベースで問題を洗い出し、実務者や市場の方々の声も聞きながら、建基法の整備にとどまらず全般にわたって安心・安全の国づくりの一助となるよう議論していただきたい」と述べた。


挨拶する馬淵副大臣(右は川本住宅局長)

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 会合では、25委員が1〜2分だが、全員が意見を述べた。各委員の声を紹介する。(ほぼ発言順)

 深尾精一座長 検討会では3つの視点にとどまらず、建築全般の視点から検討したい。

 岩田純一氏(大阪府住宅まちづくり部建築指導室審査指導課長) 審査の厳格化で時間がかかっている。特例などを活用してはどうか。認定の考え方を柔軟に考えて欲しい。

 久保哲夫氏(東京大学工学系大学院研究科建築学専攻教授) 分かりやすい制度、体系をつくるべきで、見やすいもので要点をチェックできるようにすべき。

 鈴木祥之氏(立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構教授) 伝統工法についての規定がないから小さな建物でも申請トラブルがある。自由に伝統工法が使えない。実務者の立場で意見発表していく。

 木原碩美氏(日本建築構造技術者協会会長) 法改正で審査は格段に前進している。行き過ぎを是正したい。建築士のあり方も問われている。

 秋山一美氏(住宅生産団体連合会建築規制合理化委員会副委員長) 低層と中高層が同じ法律というのは無理がある。見直す必要がある。杓子定規な審査はいかがなものか。厳しすぎるチェックは判断を硬直化させるし、過剰な設計にもなる。

 重田尚宏氏(建築設計同人あきら代表取締役) 3階建て住宅と中高層は性格が異なる。低層の建物はお客さん、大工さんなどがコミュニケーションを取りながら造っていく作業。今回の論議は建基法をどのような方向に持っていくのか、マスタープランがない。住宅基準法を作ったらどうか。

 三栖邦博氏(日本建築士事務所協会連合会会長) チェックを厳しくすれば見かけ上はよくみえるが、責任があいまいな風潮にならないか。60年前の法律は、現在の進歩した技術に合致していない。国、行政などの役割分担を明確にすべき。

 桑原耕司氏(希望社代表取締役会長) 建基法は60年が経過し使いものにならなくなった。前回の法改正は悪法をつくった。もうあいまいにできない。国の責任と権限は何か、行政の責任と権限は何か。せめぎあって明らかにしないと前に進まない。

 来海忠男氏(プランテック総合計画事務所代表取締役所長) 審査に時間がかかって迷惑を蒙っているのは国民、クライアント。常に国民目線でどうあるべきか考えるべき。設計、発注者、行政がそれぞれ権限と責務を決め、最良を発揮することが肝心。

 谷合周三氏(弁護士) 欠陥住宅の被害者の視点からすると、中間検査を確実に行うことが必要。戸建ては特別法を作っていいのでは。

 櫻井敬子氏(学習院大学法学部教授) 建基法も都市計画法も息の詰まる法制度。姉歯事件後の法改正に私もかかわったが、異常な雰囲気の中での改正であった。違反件数はそれほど多くなかったが、姉歯以外にも問題があったことを私は怖いと思った。建基法の信頼が根本から崩れたからだ。今回の改正では、もう少し賢い選択をしようとこのような検討会となったが、国交省の法律は緻密すぎて窮屈。硬直化している。もっとおおらかにアイデア、仕組みを考えてもいいのではないか。

 峰政克義氏(日本建築士会連合会副会長) 建築士は100万人ぐらいいるが、生きている(活動している)のは6万人ぐらい。

 高野雅司氏(日本ERI確認検査副本部長) 確認審査は民間が75%ぐらいだが、行政と連携していくことも必要。情報公開を積極的に行って欲しい。法改正に期待している。

 河口英生氏(福岡県建築都市部建築指導課長) 確認審査は行政が3割ぐらいだが、審査スピードは民間より遅い。集団規定などの相談に時間がかかるためで、 民間との役割分担があってもいい。

 山本利徳氏(旭化成エンジニアリング エンジニアリングセンター土木建築部長) 審査が延びると投資(工場建設)しずらくなってくる。既存の再利用にも困っている。

【お断り】極力各委員が話したとおり紹介したいが、パソコンばかりで記事を書いている記者の漢字書き取り能力は小学生並み。しっかりメモが取れず、聞き取りづらい部分もあったので、発言趣旨と異なるコメントとなった場合はご容赦願いたい。議事録は国交省より公開される予定。  

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 記者は、今日も書いたが、単に建基法の確認審査の迅速化、申請図書の簡素化、厳罰化にとどまらず、都市計画法、その他の建築行政のあり方を論議して欲しいと願っている。 あの姉歯事件は、建基法の支柱どころか土台まで揺るがした。建基法60年の矛盾が一気に噴出した事件でもあった。

 しかし、本日の会合から判断すると、馬淵国交副大臣も国交省もそこまで踏み込んだ論議を期待していないようにも思った。これから行われようとしている論議が屋下に屋を架すことにならないことを願うばかりだ。建基法だけを論じても、良好な街づくり、国づくりにはならない。建基法や都市計画法などの法制度にもう一度、哲学・思想を吹き込む論議をしなければならないと思う。

(牧田 司 記者 2010年3月8〜9日)