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 素人でもわかるルール必要

問題の本質に切り込んだ福井発言

国交省 第1回「民間賃貸住宅部会」開く

 

 国土交通省が2月24日、「社会資本整備審議会住宅宅地分科会(第 22 回)及びマンション政策部会(第6回)合同会議並びに民間賃貸住宅部会(第1回)」を行ったことについて先に書いた。今回は、民間賃貸住宅部会について紹介する。

 同部会は、大きく分けて@賃貸住宅を巡る紛争の防止のための方策A賃貸住宅を巡る紛争の円滑な解決のための方策B民間賃貸住宅ストックの質の向上のための方策――を検討するのが狙いだ。

 冒頭で挨拶した同省・和泉洋人住宅局長は「これまで賃貸住宅に関しては公的住宅に始まり、公的住宅の延長線上で論じられてきた。民間の賃貸住宅について正面切って消費者と業界のために論議するのは初めて。いわば手垢のついていない分野。具体的な政策に反映されるよう論議していただきたい」と語った。

 会合では、部会長に浅見泰司・東京大学空間情報科学研究センター教授を選出し、委員には櫻井敬子氏(学習院大学教授)と園田眞理子氏(明治大学教授)が就任。

 臨時委員には犬塚浩氏(弁護士)、金子光邦氏(同)、島野康氏(独立行政法人国民生活センター理事)、瀬良智機氏(東京都都市整備局住宅政策担当部長)、中川雅之氏(日本大学教授)、福井秀夫氏(政策研究大学院大学教授)、松尾弘氏(慶応大学大学院法務研究科教授)、山崎福寿氏(上智大学教授)、山野目章夫氏(早稲田大学大学院法務研究科教授)、吉田修平氏(弁護士)が就任。

 専門委員として川島健太郎氏(全国宅地建物取引業協会連合会常務理事)、末永照雄氏(日本賃貸住宅管理協会常務理事)、鈴木良一氏(不動産流通経営協会運営委員会委員長)、三好修氏(全国賃貸住宅経営協会副会長)が選ばれた。

 続いて、同省住宅局住宅整備課から「民間住宅を巡る現状と課題」について、各種の公的・民間の調査、アンケート資料などが紹介された。

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 同省からの報告は、賃貸住宅の現状や課題について縷縷述べられたもので、各委員からも文言の定義に対する質問や原状回復についての発言はあったが、初回の会合ということで遠慮も会ったのか、特段注目すべき発言はなかった。

 部会の雰囲気が一変したのは福井秀夫氏の発言だった。きりりと締まった。福井氏は部会で論ずるべき要点を以下の4点についてまとめ発言した。(同省は、委員の発言内容は氏名を伏せてホームページで公開するとしているが、福井氏に実名で記事を書くことを了承していただいたのでここで紹介する=記者注)

●賃貸住宅の賃貸人も賃借人もお互いの情報がよく分からないところに問題がある。情報の非対称性の問題だ。お互いが信用情報などを共有して判断できるようにすべき。○適マークなどもいいかもしれない。

●賃貸人、賃借人のお互いの交渉、取り引きにおける費用負担を軽減できるようなガイドラインが必要。東京都のルールにしても具体的な数値で示されていないから現場では使われていないケースが多い。ADRも同様だ。客観的に判断できる基準づくりが必要。

●行政指導は必要だが、過度の介入はするべきではない。

●紛争の事後の処理も必要かもしれないが、いかに事前に紛争を予防するかを重視して論議すべき。肝要なのは素人でもルールがよく分かることだ。紛争が起これば弁護士などの専門家の出番は必要だが、もっともいいのは専門家の出番が必要でないことだ。

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 記者が不思議に思ったことが一つある。同省の報告資料には原状回復や家賃保証に関するトラブルについては詳細に述べているのに対し、賃貸住宅で問題が多いとされる敷金・権利金、礼金、更新料などについてはほとんど書かれていなかったことだ。

 記者は分譲マンションなどを主に取材してきた。マンションが売れるのは、賃貸住宅が劣悪で、政策も貧困だからとずっと考えてきた。賃貸派≠ノは申し訳ないが、今後も賃貸住宅政策が劇的に変わらなければ、分譲派≠ェ多数を占め続けると考えている。

 経済のグローバル化が進んでいるのに、どうしてわが国の賃貸住宅は「礼金」など分けの分からない慣習がまかり通っているのか。同じマンションで外国人には礼金は徴収しないで、日本人には徴収する事例もあると聞く。部会でその合理的な理由を聞きたいものだ。

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 蛇足ながら面白い話を一つ。会合である委員が「原状回復なんて言葉はようやく理解されるようになってきた。以前は現状≠セった」と語った。

 記者はこの記事の校正を素人に頼んだら、「原状回復の原≠ヘ現≠カゃないの? 」といわれた。

(牧田 司 記者 2月24日)