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同じマンションで6帖大、5.5帖大、5帖大に畳6枚敷き!?

 先日、あるマンションのモデルルームを見学して驚いた。畳が6枚敷いてあるのに、居室の形はほぼ正方形に見え、畳1畳の大きさがいかにも小さく見えたからだ。

 あとでパンフレットを見て納得した。モデルルームタイプの和室は5帖大と表示されていた。使用されていた畳は、通常の約90センチ×約180センチではなく、5帖大の部屋の大きさにあわせて作られていたわけだ。通常の畳を同じ比率で縮めれば約82センチ×約164センチだが、このマンションでは約90センチ×147センチになっていたように思う。

 驚いたのはこれだけではなかった。このマンションでは6枚敷きの6帖大の和室もあれば、6枚敷きの5.5帖大の和室もあったのだ。つまり、住戸によって畳 1 枚の大きさはそれぞれ異なっていた。

 しかし、首都圏不動産公正取引協議会(公取協)の規約では、帖数表示をする場合は「1帖は1.62平方bに換算して表示する」よう求めているので、このマンションでは畳の枚数は同じでも広さが異なって表示されているわけだ。

 なんともややこしい和室をつくったものだ。わが国の伝統、文化に対する挑戦、冒涜などと非難することもできるが、まあいいではないか。従来の和室や畳の概念をいとも簡単に覆したこのデベロッパーの決断をよしとしよう。

 そもそも、わが国の伝統的な「和室」なるものは耐えて久しい。和室とは「床に畳が敷かれ、障子、襖、欄間、板張りの天井、土壁に囲まれた空間」と定義されるのだろうが、いまのマンションや個人住宅でこれら全てを満たしている空間はほとんどない。

 和室を定義づける決定的な要素とも言うべき畳も、日本古来の畳が用いられるケースは現在では寺社仏閣、茶室ぐらいしかない。

 畳は、大きく分けて畳表と畳床、畳縁に分けられ、畳表には農水省のJAS規格、畳床には経済産業省のJIS規格があり、材料や寸法、重量、製造方法などがこと細かに規定されている。

 しかし、イ草を原材料とするJAS規格として格付けされている畳表は、農水省の資料によれば、国内流通量のわずか7%、約222万枚(平成15年)しかない。

 JASもイ草も忘れられつつあるようだ。同省内にはJAS規格品について論議する農林物資規格調査会部があるが、この部会の消費者委員は「畳表にJAS規格があることを知らなかった」と正直に語っているほどだ。

 畳床も同様だ。従来の稲ワラを主原料とした伝統的なものは現在では10%程度しかなく、国内流通量の75%がタタミボードやポリスチレンフォームなどで構成された建材畳床だ。

 このように、もはやわが国には本来の「和室」「畳」などないことを再認識させられる。冒頭のような寸詰まり≠フ和室があってもいいのかもしれない。ただ、そのうちに誰もが鴨長明の「方丈記」も「神田川」の「3畳一間」も具体的な広さを連想できなくなるかもしれないし、1坪がどの程度の広さなのか分からなくなる時代がやってくるのだろう。

 ある女性に聞いた。「JAS? 昔あったわね。いまは全然気にしない。 5帖大に畳6枚? いいんじゃない」

(牧田 司 記者 2月12日)