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必見の「隈研吾展」 TOTO「ギャラリー・間」


「グラナダ・パフォーミングアーツ・センター」模型

 TOTOが運営する建築とデザインを主とした専門ギャラリー「ギャラリー・間 (GALLERY・MA)」(港区南青山、TOTO乃木坂ビル)で開かれている「隈研吾展」を見た。

会場に入るとすぐ、数え切れないほどのスタディ模型やサンプルが目に飛び込んでくる。それぞれが独立しながら、つながりあうという隈氏の思考方法や設計意図が素人にも分かりやすく展示されている。

 また、「ウォーター・ブランチ」と呼ぶ未来の仮設住宅の構造システムや、現在進行中の 2 つのプロジェクト「ブザンソン芸術文化センター」と「グラナダ・パフォーミングアーツ・センター」の大型模型が展示されている。

 「ウォーター・ブランチ」は、キュービック状のウォーターボックスをつなぎあわせたり、積み重ねたりして枝のように自由自在に構築できる構造体で、水温を調節することで住宅内の温度調節も出来るというものだった。分かりやすくいえば、レゴブロックのようなものだ。

 「ブサンソン」も「グラナダ」も目を見張るデザインで、圧倒的な存在感がある。

 入場料は無料だから是非見学して欲しい。隈氏の設計した建物では、記者はまだ見ていないが、先月にリニューアルオープンした「根津美術館」も近くにあるからお勧めだ。さらに、原宿には隈氏がデザイン監修した三井不動産・東電不動産の「パーク・コート神宮前」「ル・アール東郷」、表参道には「ONE表参道」、東京ミッドタウンには「サントリー美術館」もある。


「ウォーター・ブランチ」

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 隈研吾展のついでに、TOTO出版から出版された書籍「スタディーズ・イン・オーガニック」(四六判368ページ、定価1680円)を買って読んだ。隈氏の初期の代表作から最新プロジェクトまで36作品が紹介されているほか、隈氏の巻頭エッセイ「消去から有機体へ」が読ませる。

 装丁はアートディレクターとしても有名なデザイナー中島英樹氏で、これまた本の常識を破るものだ。カバーの天地の長さは本体より5ミリぐらい短くなっており、本体の背表紙が見えるようになっている。背表紙は、わざとだと思うが、製本途中のような背標(折丁の背中に乱丁を防止するために印刷されたマーク)がむき出しになっている。普通の書籍なら乱丁・落丁ではないか≠ニいわれそうなユニークなものだ。


「ブザンソン芸術文化センター」

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 エッセイには、われわれ素人もうなってしまう文章がたくさん出てくる。例えば、隈氏は「建築家にとって、闘い方は重要である。…建築家は、闘わない限りものがたたない仕事だからである。多くの人を味方につけ、ある広さの土地ある量の物質をまきこまない限り、ものはたたない」という。

 バブル崩壊後についても隈氏は次のように綴っている。「90年代の10年間、ほとんど東京の仕事はなかった。今、振り返ってみると、これは神から頂いた、願ってもない試練に他ならなかった。『東京的』なものを求めてカット、ペースト、リミックスをやろうにも、そもそも東京にはもう自分はいないのである」と。

 東京で仕事を失った隈氏は、四国の「梼原町地域交流施設」などを設計するのだが、「東京の現場では、現場所長以外の人間と口をきく機会は殆どない。…東京の現場で物質の生の声を聞くチャンスは失われ…『東京』という場所から離れるとどんなにせいせいするかを、梼原が教えてくれた」という。

 2002年のヴェネチア・ビエンナーレ建築展で金獅子賞を受賞した「グレート・バンブー・ウォール(竹の家)」など隈氏が多用している格子デザインについても興味深いエピソードを紹介している。「55ミリという単語が何度も執拗に繰り返されるリズムは、今でも耳の中で響いている。同一寸法のピッチのルーバーを繰り返すということで、その建築にしかないひとつの響きを獲得するという僕の手法は、この時、ダル・コーのレクチャーを聴かなければ生まれなかったかもしれない」と。

 「この時」とは、20年前の隈氏が35歳のときのことだ。

 若いときに苦労し、闘わないといい仕事ができないということだ。


隈研吾氏

(牧田 司 記者 11月4日)