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野村不動産 「エンパイアコープ」建替えについて考える

絶対高さ規制は建替えの道閉ざす


「プラウド新宿御苑エンパイア」ホール完成予想図

 今回の野村不動産の建て替え事業で注目すべきことがいくつかある。

一つは、同社の建て替え事業への積極的な取り組みだ。今回の事業は、同社にとって「千里山」(大阪)に次いで2件目だというが、このほか「阿佐ヶ谷住宅」「桜上水団地」「南砂エステート」「白金台」「三田」「渋谷駅前」など6カ所で事業を推進しているという。今回、同社が事業会社として選定されたのも「大規模開発や区画整理事業などを継続して行ってきた実績や、途中で逃げ出さない姿勢が評価された」(プロジェクト開発部開発課担当課長・岡田浩明氏)ことによる。

 今後、建て替え事業は大きなビジネスになると思われるが、肝心なのはブランド力とコンサル能力だろう。バブル崩壊後の厳しい時代にも積極的に区画整理事業に参画してきた同社が評価されるのもよく理解できる。

 もう一つは、法規制の壁だ。

 社会資本整備審議会が今年2月に答申した「分譲マンションストック500万戸時代に対応したマンション政策のあり方について」では、「老朽マンションの再生は、喫緊の重要課題である」としている。しかし、その再生の道を閉ざそうというのが、ここ10年来の建築物の絶対高さ規制だ。よほど敷地条件に恵まれていないと、総合設計の適用や容積緩和が適用されない。「還元率が今後100%を上回るのは絶望的」という専門家もいる。

 今回の事業でも、98年の当初は「負担金なしが前提」で建て替え委員会が発足している。総合設計制度を適用して36階建てにするというのがその案だった(04年)。ところが、都の景観条例により総合設計案は許可できないとの回答を得る(05年)。そして、新宿区の高さ制限30メートルの適用を受ける(06年 ) 。

 これらの障害を乗り越え、区長特例として高さ制限緩和(30メートル⇒42.8メートル、容積は300%⇒400%)を受けられたのは「行政協議や合意形成を粘り強く行った」結果だ。区長特例では@組合員の全員合意A近隣の同意−が求められたという。容積緩和が行われてもなお還元率は80%だ。

 敷地が約2000平方bと広く、入居者が富裕層で資金的に余裕があったからこそ実現できたプロジェクトということがいえそうだ。

 「老朽マンションの再生は喫緊の課題」というのであれば、官民が一緒になって絶対高さ規制の是非を含め真剣に論議すべきだろう。でないと、一般的なマンションの建て替えはほとんど出来なくなるだろう。


記者発表会に出席した左から同社住宅カンパニー住宅販売部住宅販売課担当課長・泉山秀明氏、同プロジェクト開発部開発課担当課長・岡田浩明氏、同プロジェクト開発部執行役員大久保康弘氏、同部推進課推進課長・望月朗氏

(牧田 司 記者 7月17日)