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マンションも戸建ても大苦戦<Gリアで絶好調

中央住宅「ビーモデルズ新鎌ヶ谷」53戸


建築中の「ビーモデルズ新鎌ヶ谷」

 

 残りは4戸のみ 柔軟な発想力・企画力がユーザーの心をとらえる

 柔軟な発想力・企画力によって負を正に、ピンチをチャンスに見事に転化させた建売住宅を紹介しよう。ポラスグループの中央住宅戸建事業部が分譲中の「ビーモデルズ新鎌ヶ谷」53戸だ。

 物件は、新京成電鉄北初富駅から徒歩4分、または東武野田線新鎌ケ谷駅から徒歩14分、千葉県鎌ケ谷市北中沢1丁目の一角で建設中の全53棟。現在分譲中の土地面積は約120〜132平方b、建物面積は約100〜108平方b、価格は3260万〜3610万円。入居予定は平成21年9月下旬。建物全体完成予定は21年11月〜12月。施工はポラテック。

 物件概要にあるように現在分譲中の住戸は4戸しかない。建築確認が下りてすぐの4月中旬から分譲を開始しており、すでに49戸が販売済みだ。モデルハウスは5棟建築中で、ようやく家具が入れられる段階で、畳などもまだ敷かれていない。外構はほとんど手つかずだ。

 モデルハウスができていない段階でこの売れ行きだ。驚異的といわざるを得ない。関係者ならご存知だろうが、この新京成線、東武野田線沿線ではかなりの数のマンションが分譲されており、全て惨敗。完成して1年どころか2年、3年ぐらい残っていた。当初の分譲単価130〜140万円を100万円かそれ以下に値を下げてようやく完売にこぎつけた物件ばかりのエリアだ。戸建ても総じて苦戦で、そもそもこのエリアで戸建てを分譲しようというデベロッパーはほとんどない。

 そんなエリアで同社は昨年10月、土地の仕入れを行った。時期的にはリーマンションショックの直撃を受けた戸建てもマンションも全滅した頃だ。

 最悪の時期だったからこそ、仕入れで競合することもなく安値で仕入れられたそうだが、敷地そのものも致命的≠ニ思えるハンディを抱えていた。敷地南側の一部に北総線の高架が走っており、その南側には築2年しても相当数の売れ残りがあった11階建てのマンションが建っていた。日影の影響を受けるのは必至で、普通のデベロッパーなら仕入れを断念する土地だ。

 企画を担当した同社戸建分譲事業部営業企画設計課係長・野村壮一郎氏(35)らも苦戦を覚悟した。「モデルハウスが完成する7月までに10戸ぐらい売れれば」と考えた。モデルハウスがまだ完成していないのはそのためだ。建物を完成させてから本格的に販売しようと考えたのだ。

 ところが、いざ地元周辺にチラシを配布したりネットで情報を公開したりしたところ、瞬く間にほとんど完売の状況になった。

 人気の要因は、駅近、価格が安い、土地面積が広い(周辺の建売住宅は30坪ぐらいの敷地が多く、予想外に多かった戸建てからの買い替え層の多くはそのようなミニ戸建て居住者)などが上げられようが、記者は、それらも含めた企画力とみた。

 マンションと高架線の影響を受ける北側道路の住戸は、日中の暗さを解消するために随所に間接照明を取り入れた「AKARI」をテーマにした。このほか、主婦の家事動線などを考慮した「ROSE」、先行して完成させた公園を取り囲む「FOREST」、サーフボードも収納できる「HOBBY&JOY」、外の風景・風を取り込んだ「ART」――のコンセプト、テーストが全く異なる5つのプランを提案している。

 ここでは一つひとつ詳報できないが、「HOBBY&JOY」などは驚きとしかいいようがない。まず建売住宅では見られないプランだ。玄関から直結した土間空間を設け、その上部は多目的ルームとして利用できる中2階プラスαルームになっている。現地近くにあるサーフボード店の意見を採用してできたプランだという。

      
   話を聞いた野村氏(左)と広報担当の青柳氏            先行して完成させた公園(背後はマンション)    

◇      ◆      ◇

 どうして、このような発想ができるのか。その答えになっているかどうか分からないが、同社はこれまで一貫して戸建て開発に注力してきたからだろうし、儲かるものなら何でも手を出してきた他の中堅デベロッパーとは姿勢が違うからだろう。上場もしなかったし、マンション事業も手を広げなかった。ましてや不動産流動化事業などとは無縁だ。愚直にも戸建て開発・注文住宅事業のみを行ってきた。自ら退路を断ってきたといってもよい。拠るべきところは戸建て分譲しかないのだ。危機意識が卓越した商品を生む原動力だろう。

 ポラスグループ全体のこのところの戸建て販売は絶好調だ。5月は過去最多の212戸を契約。戸建て事業部も月間目標が50棟のところを4月80棟、5月70棟、6月70棟と好調に推移しているという。

 他社にも真似て欲しいとは思うが、根本から自らの拠るべきところを問い直さないとできないだろう。

◇      ◆      ◇

 話は全然異なるが、この記事を書いていて思い出した。ご存知の方も多いかもしれないが、創業以来48年間増収増益を続けている未公開企業が長野県伊那にある。寒天メーカーだ。マンション、戸建てデベロッパーも学ぶ点が多いのではないだろうか。


「HOBBY&JOY」

  
「ROSE」                             「FOREST」         
(パンフレットの出来がまたいい。情報誌のようなつくりで、プロジェクトを担当した野村氏のほか2名も登場している)

 

(牧田 司 記者 7月3日)