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米国プライム経済レポート ワンズが配信

 ワンズは6月6日、同社の業務提携先で、不動産ビジネスカレッジLA校を運営しているプライムアソシエイツ社のジャック・才田氏より届いた「米国の経済レポート」を配信した。以下、全文を紹介する。見出しは記者がつけた。

 

モノを作る企業は利潤の多くを研究開発費として再投資すべき

 〜GMの倒産について考える〜

 GMが倒産した。このこと自体はある程度予想されていたことで驚きには値しないが、アメリカンアイコンともいえる企業が倒産した影響力は多大なものである。

 クライスラーの倒産ももちろんであるが、GMは1962年に米国自動車シェアの50%を超え、米国GDPの10%だったという巨大さからすればまず比較にならない出来事だといえる。米国政府の投入資金は5兆円で先に破綻したAIG社に次ぐ規模となる。60%の株主となる米国政府の他にカナダ政府、UAW、GM債権者が残りの40%を所有し、更正時にはすべて裁判所の承認を経て動くことになる。

 1908年にそれまでビュイック社創立者であったウィリアムデュラン氏が創立して以来、米国自動車の代名詞というだけでなく、米国企業を代表する存在として長年にわたって米国民だけでなく世界に君臨した。今後米国自動車産業が復興するのか、あるいは鉄鋼や家電のように産業転換の対象となり新たな業種にシフトしていくのか注目される。

 コルベット、キャディラックなどは世界に通用するブランドとして多くの人々に愛し続けられ、名残を惜しむ人は少なくない。しかしGMがこの状況に追い込まれるまでに、多数のマイナス要因があって必然の結果として倒産があったといわねばならない。

 労働組合の圧力による高い賃金は日本車メーカーの賃金をはるかに上回り、引退従業員に対する医療保険制度などが経営を圧迫していたことは周知の事実で、これだけでGM車は1台につき数千ドルの余分なコストがついていた。トヨタのように利潤の大半を研究開発に使わず利潤はトップへのボーナスや株主への配当に使われた。そこに今回の世界的な不景気とガソリンの大幅値上がりにより、自動車販売が一気に半分まで落ち込むという経済状況が、経営破綻を加速化させた。

 最盛期に60万人を超えた従業員は20万人強 (生産現場では6万人程度) まで減少している。ディーラー網は最盛期の半分以下に縮小される予定である。ヨーロッパにある傘下のオペルはすぐに売却し、不採算ブランドは処分してシボレー、キャディラック、ビュイック、GMCのコアブランドだけが今後も存続することになる。

 これまで30年間米国に在住した経験から言えば、品質の低下ということがGM倒産の最大の要因であると考える。これまで家族も含めて新車、中古を含めて30台近い車を乗り換えた。GM車では1980年代にシボレーのピックアップトラックとノバと呼ばれるセダンに乗ったが、両車とも月に一度は修理工場入りという有様であった。サービスに出して車をピックアップした帰りに突然ボンネットから水蒸気が噴出すので車を止めてボンネットを開けるとラジエーターのキャップが取れていたこともあった。

 ディーラーのサービスは怠慢で、こちらのニーズは何か聞き入れようとしないため、何のためのサービスなのか疑問と怒りが絶えることがなかった。もうこんな車買うものかと決めて以来、EV1までディーラーに足を運ぶことすらなくなった。

 GMの破綻はビジネスをするものにとって大きなレッスンを与えてくれたと思う。モノを作る企業は利潤の多くを研究開発費として再投資すべきである。また消費者の声をよく吸い上げるシステムが必要である。消費者は何を求めているのか、何がこれからの時代の価値観なのか、ライフスタイルはどうなるのか、いかに的確に把握できるかが大きく成否に影響する。企業が巨大化するほど、元来の創業者精神が薄れ、経営体質は官僚的で傲慢かつフレキシビリティーに欠けるものとなってしまう。

 ご存知だとは思うが、1990年代にGMは世界に先駆けて初の電気自動車EV1を登場させている。早速ディーラーで試乗してみたが、モーターだけで走る静粛性とギアシフトショックがないスムーズで強烈な加速に自動車の将来を考えさせられた。一回の充電で約140キロの走行が可能で、リースのみの販売で月6万円くらいの支払いであったかと思う。

 このプロジェクトは 1 年ほどで販売中止されてしまったが、何とか続行していれば今GMは最もエコで最先端技術を持った自動車メーカーとして存続していたかもしれない。

 新生GMは巨大なマーケットシェアを狙うのではなく、少数のブランドをから消費者ニーズに合った製品を効率的な生産体制と競争力のある労働者によって製品を提供するという試みであるが、問題は「HOW」である。GMが本当に国営でうまくいくかは大きな疑問であり、オバマ政権も経営に直接介入せず経営が安定すれば短期間で抜け出す予定でいるが、株価時価総額が上がり政府投入資金を回収できるレベルに達するにはかなり困難を極めそうである。

 マスマーケットを狙うのか、スペシャルマーケットを狙うのかも今後の経営の焦点となる。前者ならアコードやカムリに対抗できるモデルが必要である。後者なら少数でも何かインパクトのあるモデルが欲しい。デザインはキャディラックシマロンやポンティアックアズテックのような車種は2度と出すべきではない。BMWがミニクーパーを再生したようにユニークでエキサイティングな商品作りが求められる。

 燃費効率のよい自動車は以前にもGMが試みたことがあるが、トラブルが多く不評に終わっている。性能、デザイン、価格、信頼性、保証、ディーラーサービスなど多くの要因が満たされて顧客の満足につながるわけであるが、新生GMにとって短期間でそれを達成することは困難であり多難の船出といえる。特に保障やサービスに関して相対的に米国企業は改善を迫られている。弱点をカバーするためトヨタや本田などの他のメーカーとジョイントベンチャーしていくことも選択肢として考えられる。

 米国民が今後GM車を購入するかは意見が二分する。雇用を助け政府の財政を少しでも助ける意味ではメイドインアメリカを購入したいが、ユーザーとしてGM車は購入したくないという人が多い。

 ユーザーにとってもっとエモーショナルにアピールする車が登場すれば何としても買い換えたい、すぐに必要がなくてもどうしても欲しいと思うのではないだろうか。

(牧田 司 記者 6月6日)