RBA HOME> RBAタイムズHOME >2008年 >

 「綺羅星 団塊力」

三井不動産販売「相創の場」ゼネラル・マネジャー伊藤正裕氏(59−上


伊藤正裕氏

 

人生も仕事も愛

「いずれはユニバーサルな場にしたい」

 三井不動産販売は昨年9月、不動産情報ルート拡大戦略の一環として団塊の世代を対象とした新たなビジネス拠点、「相創の場」を日比谷三井ビルディング内に開設した。

 「相創の場」は、「これまでの日本経済を組織人として引っ張ってきた団塊の世代が、長年にわたり培ってきた豊富なキャリアとネットワークを退職後も余すところなく活用し、相互に協力を行い、新たなビジネス・社会活動を創出する場」で、伊藤氏が初代のゼネラル・マネジャーに就任した。

 伊藤氏は、開設時の記者発表で次のように語った。

 「私ももうすぐ59歳、典型的な団塊世代の一人。退職後の行き場がなく、一人では何もできない世代だが、唯一、右肩上がりの時代を前向きに生きてきた世代。この経験を社会のために尽くしたいと考えている人は多いはず。施設賃料などを考えれば、即収益につながるわけではないが、大きなウェーブを作れるかもしれないし、不動産コンサルフィーがいただけるかもしれない。いずれはユニバーサルな場にしたいし、地方でも展開したい。すでに地方からの問い合わせもある」と。

 あれから半年。伊藤氏に現状を聞いた。

 「団塊の世代の方は、当初予想したより少ないですね。各企業が定年を延長したり再雇用している背景もあるでしょうし、団塊世代も何か事業を起こす踏ん切りがつかないのかもしれません。

 その代わり、63歳から64歳ぐらいの方々がお元気ですね。『君(伊藤氏)たち団塊の世代はダメだね。たくましさが足りないよ』と、カンラカラカラ笑われていますよ。

 それと、われわれより若い世代の方が、独立の準備のために入会されるのが目立っています。みなさん、夜の8時以降とか土・日曜なんかに集まってやってますよ。

 驚いたのは、インドネシアやベトナムなど、東南アジアのプロが多いこと。みなさん英語でビジネスしています。英語が話せないのは僕ぐらい」

 相創の場はオープンしたばかりで、収益を生むには時間がかかるかもしれない。しかし、種をまかなければ何も収穫できない。この事業が大ヒットする可能性は十分ありそうだ。伊藤氏の実績を考えれば、その期待はいやましに高まる。

誰からも伸びると思われなかったリパーク事業

 三井不動産販売には総合駐車場事業「リパーク事業」がある。伊藤氏らが中心になって立ち上げた事業だ。スタートは1994年。バブル崩壊によってビルやマンション事業が頓挫し、各地に空き地があふれていた頃だ。リパーク事業は空き地対策に悩む土地オーナーと、ワンコインで駐車できるドライバーのニーズにぴったりの事業だ。18年度の売上高は331億円、管理台数11万台を突破した。同社事業の大きな柱の一つに成長した。

 しかし、事業開始当時、ここまで伸びるとは誰も思っていなかった。

 この事業を立ち上げたのが伊藤氏だ。柔軟な発想力がないとまず思いつかない事業だし、自由な発想を生かす風土が企業にないと生まれない事業でもある。

 伊藤氏の話を聞いていると、まさに企業の枠内に囚われない柔軟な思考力の持ち主であることが分かる。極端に言えば、人がみんな右を向いているとき、伊藤氏は左を見ている。

 趣味の話になったときだ。伊藤氏は次のように語った。

 「小説? 最近はノウハウ本、資料ばっかり読んでいるから読まなくなってしまいましたね。小説を読んでも妙に冷静に分析してしまったりして、感動できなくなってしまったのかもしれない。小説だけでなく、この前、ショスタコビッチを聴いたんですが、女房なんか演奏そのものに大感激していたけど、ピアノからメゾピアノ、ピアニッシモと進んでいくと、僕は赤の広場を連想してしまい、ついついロシアの近代を分析してしまいました」

 ショスタコビッチは、第2次世界大戦前後の激動の時代を生きたロシアの作曲家で、戦争をテーマにした交響曲を数多く残している。ピアニッシモから大音響を立てる終楽章こそ聴衆を魅了する場面だが、伊藤氏は革命戦争で流された血を想っている。

    

(つづく)

 

(牧田 司記者 3月13日)

ページトップへ戻る