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総和地所 本来の顧客主義に立ち返るべき

 

 これは一番書きたくないことだが、書かざるを得ない。書かなければ悔いを残すからだ。総和地所(中山敏則社長)のことだ。  

 同社は昨日、アンビリカル・キャピタル・リミテッド、新日本投資事業有限責任組合、VRファンディングを割当先とする第三者割当による新株の発行で約1億 6000万円の資金調達をすると発表した。

 「常に倒産リスクあるいは上場廃止リスクを抱える当社の現状を打開するため」というのが新株発行の理由だ。情報開示のための「お知らせ文」には約10ページにもわたり同社の窮状が綴られている。「当社では通常の一般管理費の支払にも窮している現状に鑑み、今回の資金調達では日々発生する費用または未払いの販売費及び一般管理費の支払と運転資金に充当する」などを読むと、胸が痛むほどだ。

 しかし、これほどまでに同社を追い込んだのは、マンション市場の劇的な変化だけが理由では絶対にない。同社の消費者軽視の経営姿勢にあるといわざるを得ない。

 同社は、経営理念に「創業以来一貫して『快適で安全な暮らしやすい住まい作り』を基本理念として、お客様に喜ばれることを第一」を掲げるが、今回の「お知らせ文」にも、これまでの一連の情報開示資料にも、顧客主義を実践しているということが伝わってこない。同社が向いているのは金融機関と投資家のみではないのか。

 顧客主義を掲げるなら、もっとも大切にしなければならないのは、同社のマンション購入者やその潜在的顧客であるはずだ。そのお客さまに背を向けて、どうして経営が成り立つのか記者は理解に苦しむ。

 いかに、同社がマンション購入のお客さまに背を向けているか、一例をあげよう。

 同社はジャスダック上場を果たした昨年の2月ごろ、ある首都圏の100戸を超えるマンションの分譲を開始した。竣工はその年の夏だ。問題なのは、販売当初から物件ホームページの更新をほとんど行っていないのではないかということだ。物件概要には「入居開始予定 平成19年8月末」とある。

 竣工後1年以上も経過しているのに、「入居開始予定 平成19年8月末」はどういうことか。記者は、現在、このマンションに何人の方が入居されているか分からないが、ホームページの更新が行われないことに入居者の方々は不安を感じていらっしゃるに違いない。未収分のマンション管理費などはどうなっているのかも心配だ。

 マンション購入を考えている人も、このような物件ホームページを読んだら「安心して購入できない」と考えるだろう。

 物件ホームページは、販売促進の大きなツールだ。現場の営業マンは必死で売っているのに違いない。これでは会社が営業の足を引っ張っているとしか思えない。同社は、ホームページの更新もできないほど経営が苦しいのかもしれないが、それならそれで事実をしっかり伝えるべきだ。

 もう一つ、同社の社長は今年9月19日付で、前社長の辻秀樹氏から現社長の中山氏に交代している。にもかかわらず、ホームページには辻前社長の顔写真付きの挨拶文が10月20日まで掲載されていた。(この記事を掲載する本日には中山社長になっていた。結構なことだが、この期に及んでまだ体裁を優先するのかといいたい)

 記者は、同社のホームページの件については、数カ月前に同社に質問状を送っている。しかし、現在までその回答はもらっていない。だから今回、実名を挙げて書くのだが、マンションデベロッパーは、一般のお客さまが相手の商売だ。依拠すべき一般のお客さまの信頼を得られなければ、事業は成り立たない。

 話は異なるが、今日、インタビューしたあるデベロッパーの営業マンは「お客さまは、どんなときでもそれぞれマンションを買わざるを得ない個別事情を抱えている。そんなお客さまは不況なんか関係ない。われわれは汗をかいてその事情を把握している。汗を出さないと知恵も生まれない」と語った。

 同社には、もう一度、マンション事業の基本を考えて欲しい。同社の情報開示は、いつも外的要因のせいにして、自らがどんなに汗をかいているのかが全然伝わってこない。手遅れになる前に手を打つべきだろう。

 それにしても、同社の迷走≠ヘジャスダック上場から始まったとしか思えてならない。同じような事例が過去にあったことを克明に覚えている。

(牧田 司 記者 10月21日)